(1) ヘッジ・ファンドの戦い
Hedge funds in grip of vicious selling cycle
Published: October 16 2008
The long and short of financials
Published: October 5 2008
ここ数日の株価の乱高下、特に昨日のエネルギー関連株の下落は、ヘッジ・ファンドが保有株を放出することによって拍車がかかっていると言われています。これは投機的な理由だけではなく、多くの顧客がヘッジ・ファンドを解約しているためでもあり、9月の解約額は430億ドル(4.3兆円)以上というデータもあります。
一方、成功しているヘッジ・ファンドもあり、左のチャートに例として挙げられたファンドはS&P500やダウが23~25%下落しているときに8%の下落で済んでいます。
また、今回の金融危機から、世界の金融セクターを投資対象としてリスクをヘッジする新たなファンドを立ち上げる動きもあります。これまでは、輸出関連株や新興国株とエネルギー関連株が対称の動きをすることでリスクがヘッジされてきましたが、このファンドは、リスクを多くとる金融機関と保守的な金融機関との間に「市場の歪み」が発生すると考え、チャンスをうかがっています。
“If you had the benefit of hindsight, and went long the top decile of stocks and shorted the worst decile of the financial domain globally from 1990 to 2007, your annualised return would be 144 per cent per year,”
(「もし、先見の明があって、1990年から2007年までの間に世界の金融銘柄のうち上位10%を売り持ちして下位10%の銘柄を買い持ちしていれば、年間144%の利益が得られたことになる。」)
投機活動に対する風あたりは非常に強く、厳しい規制がヘッジ・ファンドにも及んで、これまでのように高いレバレッジで取引ができなくなる可能性もあるのですが、各国の金融機関の動きに差が出てくることはどうやら本当のようです。
(2)「金融立国」にもいろいろある。
金融業界への規制のあり方について、世界中で激論が交わされています。
多くの国が「金融立国」を標榜し、金融サービス分野で競争力をつけてきただけに、相対的に有利な立場を築きたいという欲はあるはずです。より自由な規制をもつ国に競争力をもつ金融機関が拠点を移すことになり、ウォール・ストリート、シティ、チューリッヒ、シンガポール、香港などで争奪戦が始まっています。
No government has yet dared to say what is the right level for tier one.
(いずれの政府も、ふさわしい自己資本比率(Tier1)がどの程度の水準であるか、口が裂けてもいえない。)
スイスは米国、欧州各国に続き、もっとも遅れて公的資金の注入に踏み切りましたが(UBS)、小さな国で巨大な金融産業を抱えているために問題は特に大きいようです。万が一金融機関が破綻すれば、国の財政では支えきれない。しかし、国富の大部分は金融機関が賄っている。したがって、スイスでは他国よりもリスクの少ない金融システムを目指すと同時に、なるべくビジネスに弊害が起きないように最善の注意を払わなければなりません。
これまでの動きから、今後スイスで義務づけられる自己資本比率(Tier1)は恐らく12%~13%と言われています。(クレディ・スイスは既に13.7%を実現したと発表しました。)一方で、英国やフランスは9%程度に設定する可能性が高く、そうなればリスクは少なく済んでも国際競争力は落ちてしまいます。恐らくより安全な資産運用を求める顧客を開拓するなど、他と差別化するビジネス・モデルが必要になってくるでしょう。
一方で、他国と真逆の動きを始めたのが中国です。他国が次々と空売り規制をするなかで、「空売り規制撤廃」の政策を打ち出し、明らかに国際的な競争力を狙っているように見えます。
「金融立国」といっても、色々な形がでてきているのです。
(3)まるでおとぎ話のように・・・
ところで、経済史では、エネルギー資源を発見した国で、急激に富を蓄積する一方で、通貨価値が上昇するためにその他の製造業が衰退してしまうことを「オランダ病」(註1)と言うそうです。「オランダ病」に罹ると、何が恐ろしいかと言えば、エネルギーが枯渇したとき、もしくは何らかの理由で資源が売れなくなった場合、頼りになる実体的な産業がなく、国力が弱まってしまうことだといいます。米国のGMの危機を見ていると、エネルギー資源だけではなく、金融でも同じ現象が起きるようです。
日本は資源が少なく、国土が小さいためにうまくやりくりをする方法に長けた国と言えます。定期的に「日本ブーム」が到来するのは恐らくこのためではないでしょうか? 「もったいない」という言葉がはやったり、省エネルギー技術で先端を走ったり、NINTENDOのゲームが流行するのを見ていると、日本は自由主義経済が失敗した際のsafe-havenという位置づけにあるのではないかとも思えてきます。
確かに、グローバル化は「ファクト」(既成事実)であり、自由主義経済はもっとも高い理想であることに変わりはないのですが、金融は資源と同じくあくまでも実体経済を支えるインフラであり、主役にはなり得ません。これまで日本に蓄積された技術と文化の質の高さを考えれば、「円高は国益である」というのは、あまりにも無謀な考えのように思えます。
現在の混乱期が過ぎると、恐らく日本がかなり有利な立場に立たされるという意見がFTの記事の中にでてきています。
The truth behind the Asian fairy tale
Published: October 16 2008
Are you sitting comfortably? Far, far away from the woeful mess engulfing the wicked countries of the west lies an upright land with fecund trade surpluses, near-bottomless pools of central bank reserves, well-capitalised banks and a healthy aversion to "money game" speculation.
This land of Asia, dear children, shunned the easy profits promised by the peddlers of toxic derivative products and fancy collateralised debt obligations. Its banks eked out a respectable living through the sensible business of lending money, its manufacturers through the old-fashioned practice of making things. This is why Asia has avoided the financial near-collapse that rained down on the casinos of Wall Street and London. This is why, too, Asia will now become the sole motor of global growth.
(「ひどい混乱に陥る西側の魔の国々からは遠く、遠く離れたところに、活発な貿易が続き、底なしの豊かな貯蓄と多くの自己資本をもつ銀行があり、「マネーゲーム」に侵されずに済んだ健全な国々が存在しました。
子供たちよ、よくお聞きなさい。この「アジア」という地域では、危険なデリバティブ商品やCDOと呼ばれる魅惑的な金融商品を売り歩く売人を遠ざけ、常識的な貸付ビジネスでそれなりに立派な生活を築き、保守的な方法でものづくりを営むことで、立派な製造業をつくっていたのです。だからこそ、ウォールストリートやロンドンの「カジノ」のような金融センターが崩壊した時に害を免れ、その後世界経済の成長を牽引していくことになったのです。」)
今の世界経済の状況を考えれば、このようなシナリオにはなり得ず、見事に混乱の渦中に巻き込まれているアジアなのですが、筆者は、混乱がおさまったときにアジアの国々が有利な立場に立つことは間違いなく、実質的な社会主義国と言われてきた日本が自由主義経済の最後の砦になると締めくくっています。
If the tide of the financial crisis has indeed turned, when the waters recede they will reveal a global landscape in which Asia, though damaged, will look more solid than the west.
Japan, sometimes called the only socialist country that works, may actually turn out to be the last bastion of capitalism.
この記事を読んで、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」を思い出しました。
千と千尋の神隠し (通常版)

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今後、日本はどのような自由主義経済を目指すべきなのでしょうか・・
(註1)天然資源の輸出によって通貨の為替レートが上昇して工業品の輸出が廃れ、国内製造業が廃れてしまう現象。オランダでは、第一次石油危機の後、エネルギー価格高騰に伴う天然ガス売却収入の増大が起こり、この収入を原資に高レベルの社会福祉制度が構築された。しかし、天然ガス輸出拡大によってオランダ・ギルダーの為替レートが上昇し、製品輸出を圧迫したことから経済が悪化。経済の悪化に伴い、経済成長下で増大させた社会保障負担がオランダ経済を圧迫し、財政赤字が急増した。(wikipedia)
Hedge funds in grip of vicious selling cycle
Published: October 16 2008
The long and short of financials
Published: October 5 2008
ここ数日の株価の乱高下、特に昨日のエネルギー関連株の下落は、ヘッジ・ファンドが保有株を放出することによって拍車がかかっていると言われています。これは投機的な理由だけではなく、多くの顧客がヘッジ・ファンドを解約しているためでもあり、9月の解約額は430億ドル(4.3兆円)以上というデータもあります。
一方、成功しているヘッジ・ファンドもあり、左のチャートに例として挙げられたファンドはS&P500やダウが23~25%下落しているときに8%の下落で済んでいます。
また、今回の金融危機から、世界の金融セクターを投資対象としてリスクをヘッジする新たなファンドを立ち上げる動きもあります。これまでは、輸出関連株や新興国株とエネルギー関連株が対称の動きをすることでリスクがヘッジされてきましたが、このファンドは、リスクを多くとる金融機関と保守的な金融機関との間に「市場の歪み」が発生すると考え、チャンスをうかがっています。
“If you had the benefit of hindsight, and went long the top decile of stocks and shorted the worst decile of the financial domain globally from 1990 to 2007, your annualised return would be 144 per cent per year,”
(「もし、先見の明があって、1990年から2007年までの間に世界の金融銘柄のうち上位10%を売り持ちして下位10%の銘柄を買い持ちしていれば、年間144%の利益が得られたことになる。」)
投機活動に対する風あたりは非常に強く、厳しい規制がヘッジ・ファンドにも及んで、これまでのように高いレバレッジで取引ができなくなる可能性もあるのですが、各国の金融機関の動きに差が出てくることはどうやら本当のようです。
(2)「金融立国」にもいろいろある。
金融業界への規制のあり方について、世界中で激論が交わされています。
多くの国が「金融立国」を標榜し、金融サービス分野で競争力をつけてきただけに、相対的に有利な立場を築きたいという欲はあるはずです。より自由な規制をもつ国に競争力をもつ金融機関が拠点を移すことになり、ウォール・ストリート、シティ、チューリッヒ、シンガポール、香港などで争奪戦が始まっています。
No government has yet dared to say what is the right level for tier one.
(いずれの政府も、ふさわしい自己資本比率(Tier1)がどの程度の水準であるか、口が裂けてもいえない。)
スイスは米国、欧州各国に続き、もっとも遅れて公的資金の注入に踏み切りましたが(UBS)、小さな国で巨大な金融産業を抱えているために問題は特に大きいようです。万が一金融機関が破綻すれば、国の財政では支えきれない。しかし、国富の大部分は金融機関が賄っている。したがって、スイスでは他国よりもリスクの少ない金融システムを目指すと同時に、なるべくビジネスに弊害が起きないように最善の注意を払わなければなりません。
これまでの動きから、今後スイスで義務づけられる自己資本比率(Tier1)は恐らく12%~13%と言われています。(クレディ・スイスは既に13.7%を実現したと発表しました。)一方で、英国やフランスは9%程度に設定する可能性が高く、そうなればリスクは少なく済んでも国際競争力は落ちてしまいます。恐らくより安全な資産運用を求める顧客を開拓するなど、他と差別化するビジネス・モデルが必要になってくるでしょう。
一方で、他国と真逆の動きを始めたのが中国です。他国が次々と空売り規制をするなかで、「空売り規制撤廃」の政策を打ち出し、明らかに国際的な競争力を狙っているように見えます。
「金融立国」といっても、色々な形がでてきているのです。
(3)まるでおとぎ話のように・・・
ところで、経済史では、エネルギー資源を発見した国で、急激に富を蓄積する一方で、通貨価値が上昇するためにその他の製造業が衰退してしまうことを「オランダ病」(註1)と言うそうです。「オランダ病」に罹ると、何が恐ろしいかと言えば、エネルギーが枯渇したとき、もしくは何らかの理由で資源が売れなくなった場合、頼りになる実体的な産業がなく、国力が弱まってしまうことだといいます。米国のGMの危機を見ていると、エネルギー資源だけではなく、金融でも同じ現象が起きるようです。
日本は資源が少なく、国土が小さいためにうまくやりくりをする方法に長けた国と言えます。定期的に「日本ブーム」が到来するのは恐らくこのためではないでしょうか? 「もったいない」という言葉がはやったり、省エネルギー技術で先端を走ったり、NINTENDOのゲームが流行するのを見ていると、日本は自由主義経済が失敗した際のsafe-havenという位置づけにあるのではないかとも思えてきます。
確かに、グローバル化は「ファクト」(既成事実)であり、自由主義経済はもっとも高い理想であることに変わりはないのですが、金融は資源と同じくあくまでも実体経済を支えるインフラであり、主役にはなり得ません。これまで日本に蓄積された技術と文化の質の高さを考えれば、「円高は国益である」というのは、あまりにも無謀な考えのように思えます。
現在の混乱期が過ぎると、恐らく日本がかなり有利な立場に立たされるという意見がFTの記事の中にでてきています。
The truth behind the Asian fairy tale
Published: October 16 2008
Are you sitting comfortably? Far, far away from the woeful mess engulfing the wicked countries of the west lies an upright land with fecund trade surpluses, near-bottomless pools of central bank reserves, well-capitalised banks and a healthy aversion to "money game" speculation.
This land of Asia, dear children, shunned the easy profits promised by the peddlers of toxic derivative products and fancy collateralised debt obligations. Its banks eked out a respectable living through the sensible business of lending money, its manufacturers through the old-fashioned practice of making things. This is why Asia has avoided the financial near-collapse that rained down on the casinos of Wall Street and London. This is why, too, Asia will now become the sole motor of global growth.
(「ひどい混乱に陥る西側の魔の国々からは遠く、遠く離れたところに、活発な貿易が続き、底なしの豊かな貯蓄と多くの自己資本をもつ銀行があり、「マネーゲーム」に侵されずに済んだ健全な国々が存在しました。
子供たちよ、よくお聞きなさい。この「アジア」という地域では、危険なデリバティブ商品やCDOと呼ばれる魅惑的な金融商品を売り歩く売人を遠ざけ、常識的な貸付ビジネスでそれなりに立派な生活を築き、保守的な方法でものづくりを営むことで、立派な製造業をつくっていたのです。だからこそ、ウォールストリートやロンドンの「カジノ」のような金融センターが崩壊した時に害を免れ、その後世界経済の成長を牽引していくことになったのです。」)
今の世界経済の状況を考えれば、このようなシナリオにはなり得ず、見事に混乱の渦中に巻き込まれているアジアなのですが、筆者は、混乱がおさまったときにアジアの国々が有利な立場に立つことは間違いなく、実質的な社会主義国と言われてきた日本が自由主義経済の最後の砦になると締めくくっています。
If the tide of the financial crisis has indeed turned, when the waters recede they will reveal a global landscape in which Asia, though damaged, will look more solid than the west.
Japan, sometimes called the only socialist country that works, may actually turn out to be the last bastion of capitalism.
この記事を読んで、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」を思い出しました。
千と千尋の神隠し (通常版)

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今後、日本はどのような自由主義経済を目指すべきなのでしょうか・・
(註1)天然資源の輸出によって通貨の為替レートが上昇して工業品の輸出が廃れ、国内製造業が廃れてしまう現象。オランダでは、第一次石油危機の後、エネルギー価格高騰に伴う天然ガス売却収入の増大が起こり、この収入を原資に高レベルの社会福祉制度が構築された。しかし、天然ガス輸出拡大によってオランダ・ギルダーの為替レートが上昇し、製品輸出を圧迫したことから経済が悪化。経済の悪化に伴い、経済成長下で増大させた社会保障負担がオランダ経済を圧迫し、財政赤字が急増した。(wikipedia)
