私は結果的に20日間を病院内で過ごしたわけだが、その間にはいろいろな人達の手助けを受けた。入院中、私の世話をしてくれた人達に心から感謝の意を表したい。そして『入院生活』、とその人達のことをここに書き留めておく。
『生活』 という言葉は多くは『悪い』、『直す』を意味する言葉と対に使われるようだ。たとえば『生活が乱れている』、『ただれた生活』、『生活態度を改める』等のように使われる。しかし入院生活は基より『規則正しい生活』を強いられているため、上記の通年は当てはまらない。私も含め普通の人は病院の指導通りの正しい生活を送ることになる。
ただ、今回の入院で分かったが同じ規則でも指導してくれる方により解釈に幅があるようだ
さて、入院生活で欠かせないのが「点滴」、「食事」、「投薬」、「検査」、「睡眠」、「排便」と「娯楽」である。「娯楽」を除いたほとんどのことに看護師さんの力を借りることになる。
(入院中、延べ80人程度の方にお世話になったが、その9割以上が女性だったため、男性の看護師さんには申し訳がないが、特別なことが無い限り、以下看護婦さんと呼ばせていただく。)
入院期間中、起床時間は6時と決められており、起床時間から朝食の時刻である7時までに
朝の検診が行われる。検診は看護婦さんの仕事であり、『体温』、『血中酸素濃度』、『血圧』の計測と『聴診』(聴診器によって体の内部の音を聴く)を実施する。検診は朝・昼・夜の担当各1名により1日3回行われる。
入院5日目の朝の検診時だった。いつもと違い看護婦さん2名が検診を担当した。1名は20代後半の先輩格の看護婦さんで、一緒に来た20代前半の看護婦さんに色々指導していた。20代前半の看護婦さんはS木さんと言い、初めての実地研修だそうだ。
余談であるが、当病院では看護婦さんの制服の腕の袖に氏名が書かれており、氏名が自然と確認できるようになっている。看護婦さんに挨拶時に名前を名乗られても、聞き取れなかったり、忘れたりしてしまうが、制服の袖を見れば名前が確認できるのは有難い。
その後S木さんは1日おきぐらいに一人で検診に来るようになった。
「高石さん、おはようございます。体温と血圧を計らせてください。」
「S木さん、おはようございます。」
「体温、血圧は正常です。あとは酸素濃度の測定をお願いします。」
酸素濃度は小さな計測器((パルスオキシメータ)に手の指を挟むことにより計測できる。通常の人は濃度が98%程度であるが、私の酸素濃度は通常の人よりも低く安静にしていても94%程度だった。このことが2回目の入院に繋がった。
「それでは、胸の音を聴かせてください。」
「背中もお願いします。」
彼女は緊張した素振りで慎重に聴音機を当てていった。
「S木さん、いつも疑問に思うのですが、聴音機で何を聴いて何が分かるのですか?」
「あの、聴音機で体内の音を聴くことにより体の状態が正常かそうでないかを聴き分けることができます。」
ちょっと意地悪な質問だったかもしれない。
「S木さんは異常な音を聴いたことがありますか?」
「実は、研修のときに記録された異常音を聴かされた以外で実際の人で聴いたことはありません。」
「そうですか。S木さんの患者での異常音の第一号でなくて良かった。」
もし、異常音を聴いたら彼女はすごく慌てるだろうなと患者にあるまじき想像をしてしまった。
by MTK