窓の外はすっかり夜の帳が下りていた。既に隅田川の流れは見ることができない。
「3000万円の上乗せですか・・・。」
「それでは開発費は概算見積額の倍以上になるということですね。」
高岡はうなった。
「鈴木さん!」 「開発費がそこまで膨らんだ原因は何だったのですか?」
高岡は鈴木部長を正面から見つめて言った。
鈴木部長は高岡から目をそらし、ぼそぼそとつぶやいた。
「弁解になってしまうかもしれませんが、概算見積額の妥当性の判断は田上に任せていました。」
「もちろん各社の提案もおおまかには比較しました。ただ委託開発先に決定したA社は私どもの提示したニーズをすべて実現するという前提で、一番安い提案をしてきました。」
「安田専務のご紹介ということもあり、結局A社に決めました。」
「他の提案先の概算見積は5000万円~7000万円と高く、またニーズの一部については実現困難であるとの提案でした。」
「簡単な提案比較表を作成し、社長・役員の承認をいただきA社に発注しました。その時点では、このような事態になるとは正直考えてもみませんでした。」
そう言って鈴木部長は口を閉じた。
「鈴木さん、私はあなたを責めるつもりはありません。今回システムをリニューアルするにあたって参考にしたいだけですので、できるだけ正確にお話し下さい。」
「分かりました。社長。」
「開発費が倍以上になると聞いた時、私は信じられず田上君を呼んで説明を求めました。」
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その時の田上が、しらっとした顔で言ったことを鈴木は今でも鮮明に覚えている。
「鈴木次長、こういうことはよくあることですよ。契約書にも開発費は要件定義終了後に再見積をして双方合意の元に確定するとなっています。」
「し、しかし倍以上になることがよくあることなのか?!」
鈴木は自分の手が震えているのを感じていた。
「倍以上になることはよくあることとは思いませんが、結果的に他の提案先と同じぐらいの額ですから、良いのではないですか?」
「何を考えているのだ!」
鈴木は思わず大声を出してしまった。鈴木は総務部全員の視線を感じた。
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「その後、開発費上乗せの話を社長に報告しました。」
「社長は激怒しました。」
「しかし、契約上は要件定義後に確定見積を出すことになっていましたので、A社に対して強く言うことはできませんでした。結局。機能を削ることにより当社予算額の3000万円で開発を続行してもらいました。今のシステムが中途半端な状態にあるのはそのためです。」
「そうですか・・・。そんなことが起こるのですね。私は商社時代にシステム導入に携わったことはありませんし、与えられたシステムを使っていただけなので、システム導入の難しさはよくわかりませんが・・・。」
「池田さん、どう思いますか?」
「そうですね。問題は概算見積時のニーズの内容と要件定義後の機能のギャップにある点とベンダー選定の判断過程にあると思います。」
池田社長室長は淡々と答えた。
「鈴木さん、ありがとうございました。また何かお聞きすることがあるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。」
「どうぞ仕事にお戻りください。」
高岡の発言を受けて、鈴木と池田は同時に席を立とうとした。
「池田さん、すみませんがちょっと残っていただけますか。」
鈴木は、ようやく解放されると思い安堵の表情で部屋を出て行った。
「さて池田さん・・・。システムのリニューアルの責任者をやってくれませんか?」
高岡は唐突に言った。
池田自身システム導入の経験はあるが、決してシステム導入を成功させる自信はなかった。
「私がですか?荷が重すぎます。」
「いや、私はあなたが適任だと考えています。」
第3章 完 高石 貢(著)
第4章 -社長室長動く- 2月27日頃 アップの予定です。