最近、はやっている個室風の居酒屋に、池田は友人の相澤と居た。
今しがたおしぼりとお通しが出てきたところである。店員の女の子も割と感じが良く、池田は生ビールを相澤はハイボールのダブルを頼んだ。
「いつも相談事で悪いな。」
相澤は中堅コンサルティングファームのビジネスコンサルタントであり、T工業が事業計画を策定する際にも池田の相談に乗ってくれた。
「いや、ちっとも構わないよ。池田の会社はコンサルタントにアドバイスを求めるだけなので、報酬的には少ないけれど、逆に高岡社長や池田から学ぶことも多いからね。」
相澤はハイボールをうまそうに飲みながら答えた。
「そう言ってもらえると有難いな。」
「うちの社長は事業計画策定の時と同様、僕をシステム導入の責任者に指名したのだけれど・・・。荷が重いと言ったら相澤のところにアドバイスをもらうように指示してくれた。」
「多分最初からその腹積もりだったと思うけれどね。」
「正直、システム導入の難しさは分かっているつもりだし、アドバイスをもらえると助かるよ。」
「実は、池田も会っていると思うが、今日うちの森山に声をかけているんだ。」
「会議が長引かなければ後30分程で来れると言っていた。正式には契約してからのアドバイスになるけれど、今日のところはざっくばらんに話をしてみたらどう?」
「有難いね。正式なミーティングだと構えてしまい本音が聞きにくいからね。」
2人とも酒を焼酎のボトルに切り替えて二杯目を注いだ頃「お連れ様がお見えです。」と襖の外から声がかかった。
「よう森山、思ったより早かったな。」
「まあ、会議というより連絡・通達事項が主の集まりだからね。」
森山がひとごこち付くのを待って、池田はシステムの現状と導入経緯を説明した。
ひととおり話を聞き終えた森山は、口調は優しいが厳しいことを言った。
「池田さん、申し訳ありませんがざっくばらんにお話しさせていただきます。怒らないで聞いてください。」
池田は小さく頷いた。
「正直言って貴社の例は典型的な失敗例です。」
「システム導入の明確な目標が設定されていない。ニーズも網羅されておらず適切に定義されていない。見積の評価もされていない。業者選定の方法も適切でない。多分、開発業者との契約も適切ではない。」
森山は一気にまくしたてた。
池田は自分がぼんやりと考えていたことと一致していたので、抵抗感はなかった。
「高岡社長も池田さんも問題点は分かっていらっしゃると思いますが、池田さんもう少し詳しく説明しましょうか?」
「そうですね。おおむね納得できるのですが1点気になる点があります。概算見積と要件定義後の見積額が大幅に乖離した責任は開発業者と弊社のどちらにあるのでしょうか?」
「また、正直言って概算見積というのはどの程度の情報があればできるものなのかが想像できません。」
「確かに難しいところですね。私は概算見積時点で少なくとも基本要件は明確になっていないとだめだと思います。」
「そして、それを明確にするのは開発業者側の責任だと考えています。異論がある業者さんがいるかもしれませんが、皆プロフェッショナルであるはずですので基本要件を引き出すのはやはり開発業者側だと思います。」
「ちょっと話しは横道に逸れるかもしれません。いや。これこそが本質かもしれません。」
「池田さん、注文住宅を頼む際でも初めの設計は無料ですよね。そしてそれに基づいた見積がされ、その後に契約がなされます。そして、設計後の間取り変更もよくあることですが、その場合も極端に見積価格が変わることないはずです。それは設計者が価格変動要素のツボを押さえているからだと思います。」
「そうですね。家を建てたことはありませんが、建築については分かる気がします。」
システムは家のようにきっちり定義ができるものではなく、もっと自由度が高いものだと池田は思う。
「ただ家とシステムは違いますよね。システム要件とは何ですか?基本要件との違いは何ですか?」
池田は釈然としない気持ちを森山にぶつけた。
第4章 完 高石 貢(著)
第5章 -コンサルタントのつぶやき- 3月4日頃 アップの予定です。