新システム稼働開始は約2週間後に迫っていた。

 運用責任者の教育およびマスタ登録合宿は、金曜日の夜から23日の予定で開始された。

 

 合宿出席予定者は下記のとおりである。

【全日程参加】

  T工業:業務運用責任者、プロジェクトメンバー

  D社:岩見、鈴木、上田、サポートスタッフ

  M社:森山、木本

2日目のみ参加】

  T工業 オブザーバメンバー

 

 初日の夜は「合宿実施要領」の説明が20:00から30分間、D社岩見によって実施された。T工業の出席者達はその後入浴等を済ませ畳敷きの談話室に集まった。プロジェクトメンバー全員と運用責任者がほぼ全員-約20名が一堂に会した。

 運用責任者達は現状の業務運用のキーマンでもあり、日常業務や移行作業等に追われて、新システムの説明会やプロジェクト会議に断片的にしか出席できていない。そのコミュニケーション不足はプロジェクトメンバーとの非公式の対話で補っていた。しかし、とても充分とは言えなかった。よって、今回の合宿の実施内容の中でも、この非公式の集まりが最も重要であると言える。

 会社からの差し入れのビールやお茶でテーブルごとに乾杯し、フリートーキングが開始された。

 「皆さん、お疲れ様です。」

 「明日、明後日と公式の打合せがありますが、それとは別に今日はざっくばらんに疑問点や改善要望を話し合う場としたいと思います。」

 池田が口火を切った。

 「田部さん、ご存じのとおり現実の業務では例外対応が結構発生します。これらの例外対応についてシステム機能、運用方法について充分検討されていますか?」

 生産管理課の中堅どころの石井が質問した。

 「石井さんが言われている例外対応とは『営業からの納期変更緊急依頼』、『仕入先からの納期遅延』、『製品の品質不良による返品』等と理解してよいですか?」

 「はい。営業からの納期変更が例外というかは別として、そのような内容です。」

 石井の発言に営業運用責任者の面々は渋い顔をした。

 「例外対応については、できるだけ洗い出して業務フローに落とし込んでいます。もちろんシステム機能でバックアップできるものとシステム外で対応するものがあります。明日の運用教育は例外対応も含めて実施する予定です。」

 「その中で、対象になっていないものがあれば是非言っていただけますか?また、例外対応の運用方法・システム機能が実態にそぐわない場合も言ってください。」

 

 「田部さん、ありがとうございます。しっかりチェックします。」

 「よろしいですか?」

 営業運用責任者関東担当の関口が続いて質問をした。

 「河合さんもご存知かもしれませんが、今回のシステムでは見積の入力は営業自身がやることになっています。その方が正確で効率的だという考えからです。しかし、一部の営業からは何故自分達が見積を入力しなければいけないのかという意見が出ています。今まで通りデスクにやってもらう方が効率的ではないかという考えです。」

 「デスクサイドでも営業にいい加減な見積を入れられたらチェック・修正が大変なので今まで通りの分担が良いとの意見も出ています。」

 「この件をこのまま放置していると運用に混乱を起こす可能性があります。プロジェクトチームとしてはどう対処しようとされているのですか?」

 「関口さん、あなたは営業が見積を作成することについてどう考えますか?」

 河合が逆に質問した。

 「私は、見積は営業が作るべきだと思います。」

 「分かりました。もちろん私も営業の方達の意見が分かれていることは知っています。特に、キーボードやマウスを触ったことがない方にとっては、見積入力は苦痛だと思います。また、営業はあくまでの客先に行ってこそであり、見積入力は営業の仕事ではないとの考えもあるようです。」

 「但し、この件については基本要件時点からの方針であり、営業さん向けに再度理解してもらう場を設けます。」

 この後も質疑応答は続いたが、皆が疲れているため23:30頃散会となった。

 談話室に残ったプロジェクトメンバー達は現場との意識ギャップが大きいことを思い知らされていた。

この物語はフィクションであり登場する企業・人物は架空のものです。

22章 完 高石 貢(著) 

23 -システム導入(2)-  914日頃 アップの予定です。