合宿2日目は、朝9時からの運用テストで始まった。

 運用テストには、高岡を除きT工業のオブザーバ全員が参加した。



 午前中は通常業務を中心にテストが行われた。合宿の前にプロジェクトメンバにより運用テストは既に実施済みである。そのため特に問題は認識されず、運用責任者からは帳票の項目表示位置の修正程度の要望しか出なかった。



 昼食は談話室にて、仕出し弁当を食べた。

 

午後からは例外運用に絞ってテストが行われた。その結果、運用責任者から次の2点について修意見が提示された。



1. 顧客からの「検収書」入手の遅延



 T工業では保守部品以外の製品に関しては、すべて客先からの「検収書」に基づいて売上を計上している。しかし、実際に製品を客先に納品し、現場が稼働を確認していても、「検収書」の入手が遅延して売上の計上がずれるケースが散見される。これは承認者の不在等、客先に起因するものが大半である。

 「検収書」入手遅延の場合の運用方法およびシステムの修正について意見が交わされ、新システム安定稼働後に対応することで合意した。



2. 仕入先からの分納対応



    要件定義、設計段階では、分納は発注時点の数量が全量納品されて初

   めて完納とする仕様になっていた。しかし、現実には100個発注していた部

   品が95個分納されるようなケースがあり、このような場合は95個で一旦完

   納しておく方が効率的であるという意見が提示された。

 この件に関しては、発注時数量が全量納品されなくとも完納とすることが

できる機能を追加することで合意された。但し、システム修正はシステム稼

2か月後に他の修正案件と一緒に対応されることになった。




 上記以外には、売上返品の原価不良品解体後の生産投入の原価の設定方法についても議論になったが、これは経理の検討事項としてペンディングになった。




 予定されていた運用テストは終了し、一旦休憩になった。喫煙者達は、館内と庭のどちらかの喫煙所に向った。



 「田部さん、営業による緊急納期変更について私は問題提起をしようと思いますが、よろしいでしょうか?」石井が煙を吐きながら言った。

 田部は新システム導入が決まった段階から禁煙を開始していたが、今は石井から煙草をもらって久しぶりに一服していた。



 「石井の言い分はよくわかる。プロジェクトメンバーの中でもこの件は重要だと考えている。もちろん、システム以前の問題であるため、別途問題提起をする必要がある。今日の最終セクションで是非とも提起してください。社長も出席する予定だ。」




 休憩時間が終了し、「マスタ登録」のセクションに移った。



 マスタ、主に部品表マスタの約90%は登録済みだが、まだ10%が未登録であるそして。その原因は、生産管理のメンバーの多忙にあった。

どうしたら、生産管理のメンバーから情報を引きだし、本番稼働までに残りのマスタを登録できるようにするのかが、プロジェクトチームの課題である。



 アルバイトを投入することは可能であるが、問題はその質である。「部品表の構造の理解」ができる能力を有することは当然であり、それ以上に生産管理の職人的な人々からスムーズに情報を取得する能力が必要だった。3か月前にも数人のアルバイトを採用したが、進捗ははかばかしくなかった。そこでプロジェクトチームはある秘策?を思いついた。そしてそれを実施することによりマスタ登録は成功した。



(注)この秘策については重要なノウハウのため?内容は別な機会にお話ししたいと思います。 「筆者談」



 

 マスタ登録段取の説明が終了しようとしている時、高岡が会場に入ってきた。そして真っ直ぐにプロジェクトメンバー席に進み池田の隣に座った。

 田部は説明を終えその後、質疑応答を実施した。それが終了したのは17:30少し前だった。




 「皆さん、お休みにもかかわらずご苦労様です。」

 高岡が立ち上がってねぎらいの言葉を言った。



 「社長、今マスタの登録に関してのセクションが終わり、次はシステムに関わらず今後の我社の業務運営に関する意見を聞くセクションです。」池田が言った。

 「そうですか。ちょうど良い時に着きました。実際はもっと早く着く予定でしたが、顧客との話が長引きました。というのは嘘でゴルフ場からの道が混んでしまいました。すみません。」高岡は、決して偉ぶったり、偽善者ぶったりはしない男だった。



 「是非皆さんの忌憚のない意見を聞きたいと思います。」

 「もし、このセクションで時間が不足しましたら、夕食後に一杯飲んでリラックスして話をしましょう。私も今夜はこちらに泊まりますので時間はたっぷりあります。」



 しばらく誰も発言しなかった。そして、石井が意を決して挙手をした。



  「システム機能とは直接関係は無いのですが、営業からの納期変更緊急依

頼が無秩序に提出されていることを、問題として提起したいと思いま

 す。」

 
「納期変更緊急依頼が提出されることにより、生産計画の変更が余儀なくされ生産体制に大きな影響を与えます。顧客の要望に応えるために緊急変更が必要なのは理解しています。しかし当依頼は営業担当者個々人の判断で出されており、組織判断がなされていません。」

「緊急変更依頼に対応するためには、T工業としては「売上原価の増加」、「仕入先への緊急対応の依頼」等が必要になります。営業の方達には、これらの影響が発生することを理解していただき、本当に必要な依頼だけに絞っていただきたいと思います。」石井が真剣に訴えた。



「石井君、営業は顧客のために昼夜を問わず働いている。生産管理業務が大変になるからと言って顧客の要望に対応するための緊急依頼を減らすことはできないよ。」営業担当の山田常務が石井を睨んで言った。



「山田さん、ちょっと待ってください。石井さんの発言の趣旨はそういうものではないと思います。」高岡が対話に割り込んだ。



 システム稼働開始まで、あと2週間・・・。




この物語はフィクションであり登場する企業・人物は架空のものです。



23章 完 高石 貢(著) 



 

最終章 -システムの評価は?-  926日頃 アップの予定です。