「一点良いですか?」オブザーバの渡辺部長が手を挙げて言った。


 生産管理課長である田部は渡辺製造部長が苦手だった。渡辺部長の意見はいつも正論だとは思うが、いつも現場の状況とずれていると彼は思う。システム化計画から始まり要件定義を経てシステム設計も最終段階である。今更、渡辺部長にかき回されたくはない。


 岩見の了解を得て渡辺が発言をした。


 「田部君、心配しなくても良いよ。システム機能に関して今更何かを言おうとは思っていない。現場がやりやすいようにやってくれればよい。」

 渡辺は、田部の方を見てニヤリとした。


 「ただ私が危惧しているのは、各システム機能の使用権限の設定とマスタの項目設定の分担についてです。」

 「今まで製品名称・コードや部品表に関しては生産管理の担当者の独断で決められていた事実は否めないと思う。また、取引先との決済条件も担当者任せで経理がチェックできていない。今回のシステム導入においては責任分担を明確にして、マスタ項目がきちんと設定できるようにしたいと考えているのだが・・・。」


 「渡辺部長、おっしゃる通り今までは日々の業務を回すことに精一杯で、マスタの管理がきちんとできていなかったと私も反省しています。」

 「そのために、誤取引の発生や、業務の非効率を招いていました。今回はシステムの導入と共にマスタ管理業務の整備も併せて進めていく予定です。」

 「岩見さん、すみませんがその点について説明をお願いします。」


 「はい。渡辺部長、前者については下記のように決まっています。」

 システムユーザひとりごとにID、パスワードが付与される。

 IDごとまたはIDが所属するグループごとにシステム使用権限が設定される。

 権限の設定はマスタ上でできる。

 権限設定ができるのは、池田室長、長野さんに限定される。

 具体的な権限については、最終設計ミーティングまでにT工業が決める。

 その他、ユーザ権限の棚卸・承認に関しては別途定める。


 「岩見さん、ありがとうございます。プログラム利用権限については、了解しました。」

 「後者のマスタについてですが、同一マスタの項目設定に関して、複数部門が関与する必要があります。これに関してはどのようにお考えでしょうか?」


 「渡辺部長、パッケージ機能では同一マスタの項目ごとには権限を設定することはできません。よって現状ではマスタ登録票を作成し、その回覧・チェック・承認によりマスタ項目の標準化、信頼性の確保を図る予定です。」


 「岩見さん、了解です。ありがとうございます。マスタ登録票と責任分担案ができましたら、私にも確認させてください。」


 「渡辺部長、了解しました。」


 当該ディスカッションが終わった後に、「進捗状況」に関しての確認が行われた。システムの開発・テストに関してはオンスケジュールのようだが、「ユーザ教育」、「マスタ整備」については2週間程度遅延している。

 両者とも現状業務が多忙な方が担当しているので、池田は遅れているのはやむを得ないと思う。しかし、新システムを円滑に立ち上げるためには両社とも重要な内容である。


 「池田室長、教育もマスタ整備も休日に合宿等を実施してでも、何とか間に合わせられないでしょうか?弊社側は、休日にでも対応できる体制を敷きます。」

 「岩見さん、分かりました。システム導入時の混乱を避けるために「運用テスト」はしっかりとやりたいと考えています。そのためには「ユーザ教育」、「マスタ整備」を早急に終わらせる必要があります。社長に話をしてみます。」


 新システム稼働開始まで、約90日と迫っている。

 「教育・テスト」のほかにも「データ移行」、「環境設定」等のタスクが残っている。池田は不安と期待が織り交ざった気持ちのなかで、自分の役割の重さを感じていた。

 


この物語はフィクションであり登場する企業・人物は架空のものです。


21章 完 高石 貢(著) 


22 -システム導入-  97日頃 アップの予定です。