「当社【情報管理担当】の長野です。遅くなってすみません。」
その男は、そう名乗って河合の隣に座った。
「長野さん、偶然ですね。お久しぶりです!」岩見が声をかけた。
「岩見さん、こちらこそお久しぶりです。ECシステム導入の際はお世話になりました。もう3年ぐらい経ちますね。」
「いえいえ、あの時私は基幹システムとECシステムとのインターフェースを担当しただけでした。」
「基幹システム導入の際にも、色々とありがととうございました。」長野が頭を下げて言った。
「お二人ともすみません。あまり時間がありませんので会議を続けたいと思いますが・・・。」
池田が二人の会話を遮った。
池田は長野に会議の経緯を かいつまんで説明した
長野は、事前に「システム化計画」、「ベンダー提案」、「ベンダー選定」の全
ての資料に目を通していた。
「新参者で若輩の私が途中から口を挟んで良いですか?」
長野は、皆を見回して言った。
池田も河合もこの状況に不快感を感じたが、今後のことを考えると仕方な
うなずくしかなかった。
「ありがとうございます。議論が収束しない原因は顧客別利益管理の目的と仮説が明確でないためだと思います。」
「システム化計画では「顧客別利益管理」の目的として【顧客別利益構造を営業利益まで明確にし、今後の戦略立案に役立てる】とあります。」
「この営業利益という点がポイントだと思います。粗利ベースであれば、何をいくらで誰に売ったのかが分かれば、顧客別利益は把握できます。」
「ところが、顧客別営業利益といった場合、投入される販管費のうち顧客別に直接的に把握できるものは少ないし、それらを把握するためには多大な手間をかける必要があります。そのため、費用把握とそのためのコストの妥当性についても考える必要があります。」
「また、汎用品と特注品では販売費をかける分野が大きく異なっています。そのため現行システムと融和した機能追加が必要になります。」
「蛇足かもしれませんが、誤解が無いように敢えて念をおしますが、あくまで現在の議論は販管費のことであり、製造原価は汎用品、特注品とも把握できているとの前提です。」
「また、顧客別に費用を見た場合、費用をかけても失注してしまい、その顧客の売り上げに繋がらないケースも多々あります。特に特注品の場合が顕著で、年間の売上高が0円で営業利益が大幅なマイナスの顧客も多く見かけます。」
「すなわち、特注品については汎用品の管理とは異なる管理の導入が必要です。社長もその管理を特注品だけでなく汎用品との関連も含んで強化したいと考えていらっしゃるのだと思います。」
長野が分かり易く解説した。
河合は思った。長野が解説している内容は本来ならば営業企画課長である河合が主体的に分析すべき内容である。高岡もそれを望んでいたのだと思う。
彼とて汎用品の利益分析は実施してきておりそれなりに貢献してきている。しかし特注品-個別受注品-については勝手が違った。
「河合さん特注品の販管費の内、特に重要なものは何で、それらは直課が好ましいものかどうかを整理されたらどうでしょう。さすがに岩見さんは今回の提案に先立って直課・配賦・配賦基準のパターンと特徴を関連図の形にまとめられています。」
河合はもやもやが晴れたような気がした。
その眼で岩見が作った関連図を改めて見た。関連図上に各費目の平均的数値を書き込んだ。
池田は「顧客別利益管理」システムが有用なものとして開発されることを確信した。
この物語はフィクションであり登場する企業・人物は架空のものです。
第19章 完 高石 貢(著)
第20章 -システム設計- 8月10日頃 アップの予定です。