システムレビュー会議から約2週間後にT工業のシステム化計画が完成した。完成と言っても現実はシステム化計画を具現化するためにベンダーを選定しなければならず、その過程で計画の変更を余儀なくされるケースが多い。

 

 池田は「システム化計画」が完成した日に、田部、河合、沢田達と酒席を共にした。そこにはM社の森山とそのスタッフの木本と河合の部下である羽田彩香も同席した。

 池田は社長室長であるが、現実には直属の部下がいないため自らが計画書を作成していた。それを見かねた河合が羽田に助っ人を頼み、計画書の体裁、色遣い等の訂正に加え、統計数値の集計も羽田が担当した。

 六時半から飲み始めた池田達であったが、30分ほど遅れてM社の森山達が合流した。

 「池田さん、遅くなってすみません。相変わらず不毛な会議が延びてしまいまして・・・。」

 「いえ、森山さんのお陰で何とかシステム化計画を策定できることができました。ありがとうございました。」

  池田達は何回目かの乾杯をした。

 「実際は計画書の作成も森山さん達にお願いすれば、もっと効率的だったと思うのですが・・・。」

 「池田さん、今回のやり方が正解だと私は思います。高岡社長の、会社が置かれている状況と人材に関する把握力は凄いと思います。」

「レビューミーティングで田部さんが言われたように、貴社は確かに分岐点にきていると私も思います。それは、業務の進め方だけでなく人材面も含めてです。」

「だからこそ、社長はT工業の今後を担っていく池田さん達に直接計画を策定してもらいたかったのだと思います。そしてそれがレビューミーティングでのあの発言を生んだんだのと思います。高岡さんは初めから腹を括っていたのでしょう。」

 森山は心からそう思っていた。

「池田さん、いよいよ次のステップ『実行計画の策定』に移りますが、多くの企業ではこのステップで躓いています。」

「それは何故でしょうか?」

「その原因の主なものはベンダーの選定の方法に誤りがあったためです。」

「池田さんだったらどのようにベンダーを選びますか?」

「そうですね、業界に詳しく信用ができる会社を選びます。」

「確かに正しい考え方とだと思います」

「それでは業界に詳しいとはどのように判断しますか?また信用ができるとはどのように判断しますか?」

「業界に詳しいとはそのベンダーの導入実績であり、それには業界にフィットしたパッケージソフトを持っているかも含みます。信用ができるとは会社の規模であり世間的に評価されている会社かどうかです。」

「あくまでも私見ですが、私は池田さんの考え方に重要なポイントが抜けていると思います。」「私でしたらその2点は必要条件であって十分条件ではないと考えます。」

「森山さん、それでは十分条件とは何ですか?」

「それは担当するSEおよび営業のスキルと人間性です。」

 池田達の周囲が徐々に騒がしくなってきている。

 時計の針は既に八時半を過ぎていた。

「詳しい話は明日のミーティングでしますが、システム設計、プロジェクトマネジメントを統括する人のスキルと人間性こそが最も重要な選定基準だと私は考えます。」

 その後、仕事から離れた話題で皆が盛り上がり11時過ぎに散会となった。

 池田は、帰途のタクシーの中で森山の発言を反芻していた。「担当するSEのスキルと人間性・・・か」確かに企業の評価だけではだめだと思った。いくら企業としての実績があっても一緒にシステムを構築していく人がスキル・人間性とも信頼できなければシステム導入はうまくいかないだろう。

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 翌日、実行計画・RFP作成のための第1回プロジェクトミーティングが開かれた。

 プロジェクトメンバーには社長・専務・常務・製造部長は入っておらず、池田を初め若手のメンバーで構成されていた。

 初めにM社の森山からベンダー選定の評価項目・進め方についての説明があった。

 「まず、ベンダーの選定基準ですが以下のものがあります。」

 「もしこの基準に関して追加・変更すべきものがあればご意見をお願いします。」

 参加メンバーに特に異議はなかった。

 「それでは、次にRFPの内容ですが私は以下のものを考えています。」

 森山がベンダーから提案してもらう内容について説明をした。

 「今回は、パッケージベースでも新規開発でもベンダーとして当社にフィットする方を提案してもらう予定です。」

 「但し、会計システムについては現状のパッケージをベースに個原価管理を追加する方向での提案をお願いすることにします。」

 「ハードウェアについても買い取り・リースまたはアウトソーシングの内、当社に合ったものを提案してもらうようにしています。」

 

 「すみません。森山さんが重要だと考えられているプロジェクトマネージャの評価はどのように実施するのですか?」池田が質問した。

 「まず、プロマネを含む開発に携わる人の業務経歴を提示してもらいます。」

 「次に、『システム化説明会』における質疑および『システム化の提案』でのプレンゼンテーション・質疑内容を評価します。

 池田は、それだけでプロジェクトマネージャのスキル・人間性を評価できるだろうかと疑問に思った。

12章 完  高石 貢(著)

13 -誰に頼んだら(2)-  529日頃 アップの予定です。