池田、田部、河合のミーティングはぎこちない雰囲気で始まったが、テーマが具体的になるにつれて本音ベースのものになってきた。3人の年齢が近いこともあるが、3人とも今後のT工業を何とかしなければならないとの共通の認識を持っていたためである。
T工業も先代社長から高岡の時代になっていく。それ以前に先代社長は自分自身の成功体験にしがみついていてはダメだと考えており、若い優秀な人材の確保と育成に努めてきていた。高岡はそのことに気づいており、父親に感謝していた。
3人はミーティングを終えても、話足りなかったため近くの居酒屋へとなだれ込んだ。
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システム計画レビューミーティングの朝、池田は熱くて濃いコーヒーをゆっくり飲んだ。今日のミーティングは荒れるかもしれない。しかし、いずれは通らなくてはならない道だと思う。
高岡は池田にレビュー会議の進行を任せていた。但し、池田の意見を全面的に受け入れているというわけではない。
レビュー会議は、土曜日の朝9:30からの開始だった。
場所は、T工業本社から徒歩5分程度のところにあるホテルの会議室である。各部門のマネジメント、現場責任者が集まる。もちろんM社の森山も参加する。
出席者全員が9:30には着席していた。
「皆さん、休みの日にお集まりいただきありがとうございます。」
高岡がまず口火を切った。
「皆様ご存知の通り、私は我社のシステムをリニューアルすることを決断しました。システムをリニューアルすることは大変なことだと認識していますが、T工業にとって今がそのタイミングであると私は思っています。」
「そして、M社の森山さんにお手伝いをいただきビジネスモデルの整理、システム改善のためのインタビューを実施しました。皆様にはお忙しい中ご対応いただきありがとうございました。」
「その結果を池田室長にまとめてもらいました。本日のレビュー会議でT工業としてのシステムリニューアルの計画をフィックスしたいと考えています。」
「まだ意見が分かれているテーマもあるようですが、それらについてはこの場でディスカッションしたいと思いますので、忌憚のない意見をお願いします。」
「それでは池田さんお願いします。」
「はい。それでは始めさせていただきます。皆様には事前に資料を送付させていただいていますが、資料に沿って改めて説明します。」
「初めに『システム化の目的』ですが、社長と相談の上『経営の見える化』と設定しました。」
「弊社での勤務経験が少ない私がお話しするのは申し訳ありませんが、我社は町工場から始まり、生産する製品の品質・価格面でお客様からの信頼を得てここまで成長することができました。その過程で、様々な新製品を開発し保守体制も確立してきました。」
「しかし当社の成長と共に、経営状況が見えなくなってきているのが実態だと考えます。成長のために汎用品の種類を増やし、特注品も導入してきました。また、汎用品のソフトウェア制御にも着手しています。今後の我社の方向性を考えるうえでも、この機会に経営、特に利益についてその構造を見えるようにすることが重要だと考えました。」
「経営の見える化という目的には賛同するが、それによって品質やサービスがおざなり、いや、極端な利益主義で切り捨てられるようなことが無いようにしてほしい。」
安田専務が口をはさんだ。
「今回の『システム化の目的』につきましては、池田さんとディスカッションした上で、敢えて私の我儘を通させていただきました。もちろん安田専務の言われるようなことにならないようにしようと思っています。」 高岡が応えた。
「但し、T工業は営利を追求しなければなりません。利益が上がらなければ従業員の人達の生活も保証できません。そのところをお客様に理解いただくためにも、経営が見えるようにしていきたいと考えています。」
彼が今日の会議で言いたかったのはこの一点である・
「次に『システム化の目標』ですが、以下の3点に絞りました。」
「1. 製品別・顧客別の利益構造を明確にする。 2.月次決算を5営業日以内に完了する。 3.製造原価を3%削減する。」
「少々欲張りかもしれませんが、具体的な目標を設定することが大切だと考えます。」
「いつまでに実現するのか?」山田常務が問いかけた。
「はい、1,2,についてはシステム稼働後すぐに、3については稼働後一年以内に実現しようと考えています。」池田が答える。
「田部君、システムを入れれば製造原価の3%ダウンは可能だよね。」
製造部長の渡辺が田部に念を押した。
「渡辺部長、私は単にシステムを導入したからといってコストダウンができるとは考えていません。」田部が反論する。
「製造現場も苦労して製造原価を引き下げようとしていますが、一朝一夕にできることではありません。現状を理解いただき全社として取り組んでいく必要があります。」
「皆さん、この件については今日の重要なテーマですので、後程じっくりとディスカッションさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか?」
渡辺、田部がうなずいた。
この後、池田の説明が続き、多少のディスカッションはあったが出席者の間では意見の乖離はほとんどなかった。
そして、テーマは「製造原価の削減」に関しての「システム基本要件」に移った。
第10章 完 高石 貢(著)
第11章 -計画の行方(2)- 5月8日頃 アップの予定です。