現場のインタビューを全て終えた池田は「システム化計画」のまとめにかかった。
正直言って池田には荷の重い仕事であった。彼は現業部門に一切所属せずに社長室長として前社長に採用された。それ故に、社内では彼のことを外様で頭でっかちと批判をする者もいた。
一方M社のコンサルタントの森山は工場を見学しただけで、各現場の責任者と対等以上に渉りあっていた。それに比べて池田は自分を力不足だと思う。
池田は、いっそうのことM社に計画のまとめも依頼すればよいのではと考えることはあったが、一方では社内にシステム全体像が分かる人間が必要だという高岡の考えも理解できた。
システム化計画フェーズでは、森山との相談のもと以下の項目を定義することになっている。
1. システム化の目的・目標
2. 制約条件
3. ビジネスモデル
4. システム化の範囲
5. システム基本要件
6. 新業務フロー
7. システム導入体制・導入スケジュール・導入予算・導入形態の案
8. 現行システム、現行業務フロー
システム化の範囲、基本要件についてはマネジメントと現場の意見が異なるものが何点かあった。それらについてはヒアリングとは別に関係者で分科会を開き、方向性を議論してきた。しかし、分科会においても結論が出ないものもあった。
結論が出ていないテーマの中で最重要なものは生産管理に関するもので「生産効率の向上とコストダウン」である。このテーマに関しては、安田専務、渡辺製造部長、田部生産管理課長の考えがぶつかっていた。更に、山田常務も営業の立場から意見を言っていた。
安田専務はモノづくりの職人であり、システムに多くを期待していない。ただ、システムを導入してコストダウンが図れるなら良いのではという程度の認識であった。渡辺部長は、なかなかコストダウンが図れないのは現場が生産管理を手作業でやっていることに原因があると考えており、システム導入に積極的な姿勢を示していた。一方田部課長はシステム導入に否定的であり、彼がシステム導入の障害になっているという構図である。
二週間後に、システム化計画のレビュー会議が予定されている。
池田は焦っていた。森山に相談するにしても、コンサルティング契約の限界から限られたヒントはもらえるが、深くは関与してもらえない。
彼は、事業計画策定の時に協力関係にあり、年齢も近い営業次長の河合に相談をした。
「池田さん、田部課長は製造現場のメンバーからの信望も厚く、かつ、論理的な思考ができる人です。少々、とっつきにくい点がありますが。」
「ただ幸い僕は、田部さんとは特注機の生産開始に際して、じっくり話し合う機会がありました。彼はやみくもにシステム導入を反対しているわけではなく、何か考えるところがあると思います。」
池田は、ふと田部のヒアリングの時のことを思い出していた。需要予測の精度向上に関して田部と森山は激しくディスカッションをしていた。確かその時に、田部は部品表について懸念している旨を森山に話していた。池田はその時点でその意味を充分理解していなかった。
池田は河合に田部課長とディスカッションをしたい旨を依頼した。河合は、それを快諾した。そして、その週の金曜日に三者のミーティングが実現した。
この時のミーティングがT工業にとって非常に重要なミーティングであったことを、高岡社長は後から知った。
第9章 完 高石 貢(著)
第10章 -計画の行方- 4月25日頃 アップの予定です。