怯む事無く、恐れも無く向かう。その姿は常人の域を超えている。
自然に任せるようでいて、その心なる場所に大きな畏れ隠し持っ
ていた。
その力を感じ取ったのか、さっきまでの威嚇が消え、おずおずと
森の中へと熊は消えていった。
「 一匹でも持たせてやればよかったかな。まあいいか。まずは
腹ごしらえせねばな。」
浮かび上がった魚を両手に持ち、すぐさま刀の鞘を今一度川に
そっと浸けると、さっきまで浮かんでいた魚達が、息を吹き返した
ように戻っていった。それをたまたま通りがかりで見ていた男がいた。
「 お侍さん。なんで還しちまうんだい。もったいない。」
「 わしは、わしの分だけあればよい。無駄な殺生はしたくない。」
「 こんな世の中じゃ、そんな甘い考え持ってちゃ、いつか死んで
しまいやすで。」
「 甘い考えか・・・。そうかもしれん。じゃがわしはそれでいい。」
「 変わったお侍さんだね。まあ、せいぜい死なないように。」
通りがかりで見ていた、農夫らしき男は森の奥へと消えていった。
木々の枝を魚に差して、熾した火にくべて焼き魚にしていた。
薪の弾ける音が木魂するような、奥深い森の中で一人、火を見つめ
ながら今後の事を考えていた。