「 それでは本番行きます。」
再度撮影が始まる。今度は由紀も台本どおりに進めてくれた。
一時はどうなる事かと心配したが、何とか無事にセットでの撮影は終わった。
由紀は曲の振り付けを再確認しながら、今度は曲の振りの撮影に入るようだ。
その合間に僕は自身で振りを確認しながら、練習する。僕の撮影はロケに入って
からになる。それまでは、みんなの足を引っ張らないようにとセットの片隅で
一人練習する。そんな僕に気づいたのか、撮影の合間に来栖さんが見に来ていた。
「 がんばってくださいね。神崎さんなら大丈夫です。」
「 ありがとう来栖さん。ダメなとこあったら教えてください。」
「 分かりました。いい作品にしましょうね。」
「 うん、そうだね。来栖さんも、この後の撮影がんばって。」
来栖さんは、FRCの中でもダンスに長けている。だがメンバーも個性の
ぶつかり合いで、目立つ事の少ないメンバーは、どうしても後列で目立たない
ポジションになってしまう。多くのユニットでは当たり前の後景だ。
どちらかと言えば、来栖さんはそちらになってしまう。ホントに難しい世界だ。
芸能だけとは言わないが、この世界は特に個性がなければ、すぐに忘れられる。
「 前田さん、この後は仕事入ってるの? 」
「 いいえ、特に入れてないわ。体の事考えたら病院に戻ったほうがいいんだけど。
どうする?まだここで練習する? 」
「 そうします。いいですかね? 」
「 分かったわ。スタッフさんに相談してみるわ。ここを使わせてもらえるように。」
「 お願いします。前田さん。」
セットを出て、別の部屋に移る。撮影所だけに、稽古場のように鏡のある部屋もある。
そちらに移って練習を始めた。そこに僕の様子を窺う物陰があった。