「 お、もう始めてるのか。じゃあ今日は、ちゃんと稽古できるな。」

指導の鈴木さんが稽古場に入る。僕はその間も黙々と続けていた。

前田さんが鈴木さんに挨拶に向かった。

「 今日もよろしくお願いします。本人もやる気を見せてますので。」

「 そうだな。早く済ませてくれよ。本番まであまり時間がないから。」

そんな中気づいた事があった。昨日は自分の事で頭が一杯で周りを見る

余裕がなかった。稽古場には何人かの役者さんが練習に使っている。

そうなのだ、僕だけが使ってる訳じゃない。その中になのだが、

一際目立たない女の子が、僕を見ているのだった。僕がここに入った時には

すでに居たようだ。ずっと僕の腕立てをするところをじっと見ているのだ。

ここに居るのだから役者さんなのだろう。それ位にしか思ってなかった。

ただただ見ている。ちょっと気になりだした僕は、前田さんに聞いてみる。

「 前田さん、ちょっといいですか?そこで僕をずっと見てる子が

 いるんですが。誰か知ってますか?」

「 誰、あ、あの子ね。あら、神崎君あまりテレビ見ないの?結構有名よ。」

「 え、有名な子なんですか。僕、あまりテレビ見ないので・・・。
 
 知らないと、失礼ですよね。教えてください。」

僕は普段からテレビを見ることは無い。普段は漫画を見るぐらいで、

テレビっ子ではない為、結構有名な人でも分からないだろう。だが、この

世界で仕事するって事は、それではまずい事だ。業界の事を知らないと。

「 あの子はね、子役の頃から活躍してる綾乃ちゃん。水野綾乃ちゃん。

 来た事はあるでしょ。ドラマで有名になったんだから。」

「 うーん。名前聞いたような覚えはあると思います。」

「 ホントに知らないようね。本人の前でそんな事言っちゃダメよ。」

「 それ位分かりますよ。大丈夫です。覚えはいい方ですから。」

名前が分かったことで、安心した。結構有名な子なのか。

知らない僕の方が失礼だな。そう思いながら続けた。



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