撮影の場所からは少し離れたところに、ちょっとした部屋がある。
そこに簡単な稽古場を用意してくれていた。スタッフさんが、
色々と撮影の合間に、仮設の稽古場を作ってくれていたのだ。
もちろん僕の為だけって訳じゃない。話を聞くと、監督は
現場毎に用意をしているらしく、いつでも自分を役に入り
込ませる為に用意しているのだそうだ。他の監督とは作品の
作り方が違う事で有名らしい。
「 神崎君、みんなに迷惑かけないように、みっちり稽古してね。」
「 はい、いつまでも素人芸じゃ、選んでくれた監督さんに悪いので。」
そう言った時だ。後ろから声が聞こえた。
「 それは違うぞ。神崎。演技は私の為にするもんじゃない。
この作品を楽しみにしている。間だ観ぬ人達のことを思ってやるんだ。」
それは監督さんだった。
「 まだ初めてだから、てのは通用しないぞ。やるからにはお前はプロ
にならないといけない。作品は己の為、作るべからず。これは
俺のモットーだ。作品はみんなの為に作るんだ。見てくれた人が
良かったって思えるような、そんな作品になるように。いいか。
俺はその為には、いくらでも時間をかける。納得がいくまでだ。
よく覚えておけよ。」
僕はその言葉に圧倒された。この監督さんなら本当にいい作品を
みんなに伝えてくれる。その為には、僕も本気で取り組まないとと
改めて思う。きっといい作品にするぞ。みんなに喜ばれる映画に。