それは何回目かの撮影で起こった。松田さんが走り出す時に
通りすがるエキストラの一人に肩がぶつかり体制を崩してしまった。
丁度その場を通り過ぎるタイミングだった。僕の方へ倒れ掛かったのだ。
僕もそれを見たときに、慌てながら体が動いた。松田さんを助けようと
動いた時に、同じ様に通りすがる人にぶつかりメガネを落としてしまう。
助ける行動の方に意識が向いていて、メガネのことなど気にしてなかった。
倒れこむところを体で支える事ができ、倒れることなく事はすんだ。
だがその次の瞬間だ。
「 あ、ありがとうございます。大丈夫です。」
と体制を直す時に、僕の真正面に顔が・・・・。
僕自身も、ホッとしていた時だからまともに顔をつき合わしてしまう。
「 大丈夫ですか。怪我がなくてよかった。」
僕が声をかけた時だ。完全に目と目が合ってしまう。
赤ら顔の松田さんがそこにいる。次の瞬間には松田さんの体が僕に近づく。
周りは心配に駆けつけるスタッフさんやエキストラの方々だったが、
その行動にみんなが硬直してしまう。
僕自身も固まって動けなくなってしまった。近づくのは体ではなく
顔が近づく。とその瞬間、僕の唇に松田さんの唇が重なる。
一同がその光景に固まってしまった。数秒間が長く感じる。
それを制したのは、松田さんのマネージャーさんだった。
「 ちょっと、由紀ちゃん。何してるの。」
その言葉でみんなの硬直が解け、時間が動き出す感じだ。
周りの人からの歓声があがる。無理やりに僕の体が後ろに飛び転ぶ。
マネージャさんは松田さんに駆け寄る。スタッフの一人が僕の肩を持ち、
松田さんから離されたのだった。痛さの中で何が起きたのかと僕自身も
頭の中が真っ白で考えが出てこない。
「 あんた、なんてことしてくれるの。由紀大丈夫。」
松田さんのマネージャーが、松田さんを気にしながら僕に吼えたのだった。