春なのに 中編 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

「オッパ!」


修道院にいるはずのミニョが急に現れたことに驚いたテギョンは、大きく目を見開いた。


「ミニョ、どうしてここに」


動揺するテギョンを見てミニョは大きく息を吸うと、ずんずんと大股でベッドに近づいた。


「私はその人みたいに美人じゃないし、スタイルもよくありません。ドジでオッパに迷惑ばっかりかけてます。でもオッパが好きです。この気持ちなら誰にも負けない自信があります!私もっと努力します。事故多発地帯って言われないように気をつけるし、ダイエットもします。だから・・・だから!」


テギョンが手にしている携帯を涙目で見つめ、ぐっと奥歯を噛みしめる。他の女性の存在にかなりのショックを受けたが、このままおとなしく、何も言わず引き下がるなんてできない。

テギョンをとられたくない、捨てられたくない、その一心でミニョは自分の気持ちをテギョンにぶつけた。

こらえていた涙が頬を伝う。一度流れることを許してしまった涙は堰を切ったようにあふれ、頬に幾すじもの跡をつくった。

相手の女性がこの部屋にいるわけではないが、電話で「愛してる」と話してた以上、浮気現場を見つかったようなもの。しかしうろたえるでもなく、開き直るでもなく、テギョンはコキッと首を傾けた。


「その人みたいって・・・一体何のことだ?」


「とぼけないでください、私、聞いてたんです、オッパが「愛してる」って・・・その電話、こないだ週刊誌に載ってた人でしょ?」


ぐずっと鼻をすするミニョと携帯を交互に見ていたテギョンは、ぱしぱしと何度かまばたきし、フッと鼻で小さく笑うと、手にあるそれをスッとミニョの目の前に差し出した。


「テギョンヒョン、話が違うじゃないか、ミニョの声が聞こえてくるんだけど、どういうこと?」


「へ?・・・お兄ちゃん?」


”熱愛!”と週刊誌に載っていた女性と話していると思っていたのに、電話から聞こえてきたのはなぜかミナムの声。


「え?え?何で?どうしてお兄ちゃんが・・・・・・はっ!まさか、愛してるって、お兄ちゃんのこと!?」



露わになった真実に更なるショックを受けたミニョの顔が青ざめる。


「そんなわけないだろ!」


驚きで開きっぱなしになっている口に手を当て、じりじりと後退るミニョを見て、テギョンは大きなため息をついた。






「どうして急に修道院に泊まれなんて言ったんですか?」


事の発端は昨日テギョンが帰ってきた時に言った言葉。二股疑惑は晴れたがやっぱりミニョには理由が判らない。テギョンは渋るように口元を歪ませていたが、詰め寄ってくるミニョに身体をのけ反らせながら、仕方ないと口を開いた。


「昨日・・・具合が悪くて病院に行ったら、インフルエンザだと言われた」


「え!どうして黙ってたんですか、早く横になってください。熱は?高いですか?薬は飲みました?私、つきっきりで看病します!」

 

「そういうと思ったからしばらく修道院に泊まってくれと言ったんだ」


「え?」


「薬は飲んだ、熱はまだ少し高いが明日には下がるだろう。少し頭痛はするが大したことない。それよりも俺が心配なのはミニョにうつらないかということだ」


ミニョの反応はテギョンの予想通りだった。インフルエンザにかかったと言えば、看病すると言ってきかないだろう。ミニョにうつしたくないテギョンは何も告げず、とにかく一刻も早くミニョを遠ざけたかった。

大げさだと言われるかもしれないが、ミニョを修道院に泊めることが、その時のテギョンは最善の方法だと思った。

ミニョにうつすなよと電話をかけてきたミナム。言われるまでもない、そのためにミニョを遠ざけた。愛してるという言葉もミニョに向けられたもの。ミニョがこっそり聞いたのはその時の会話だった。


「で?俺はミニョの身体を心配したのに、ミニョは俺の浮気を疑ってたのか?」


「え!?あ、あの、その、別に、そういうわけでは・・・」


一瞬にして攻守が交替し、しゅんと俯くミニョ。しかしその顔はすぐに勢いよく上げられた。


「と、とにかく、オッパは身体を休めてください」


「ああ、判った。判ったからミニョは早くここから出て・・・」


「私、出て行きません。オッパが私のことを気遣ってくださるのは嬉しいですけど、私はここにいます」


「おい、いくら薬を飲んだからって、まだうつるかもしれないんだぞ、インフルを甘くみるな」


「甘くみてるわけじゃありません。夜はリビングで寝るようにしてなるべくオッパに近づかないようにします。ずっとマスクもつけて・・・ですから他所に泊まれなんて言わないでください」


ミニョの縋るような目にテギョンの心がぐらつく。

昨夜はかなり熱が上がった。高熱のせいで身体が痛く、水を飲みに起き上がるのも辛いほど。うつさないようにとミニョを追い出したが、傍にいて欲しいという気持ちもあった。


「・・・俺はなるべく部屋から出ないようにするからな。食事もこっちへ運んでくれ」


「はい!」


ミニョの顔に笑みが浮かんだ。


翌日の朝にはテギョンの熱はすっかり下がった。咳は出るが、咳き込むほどではない。だがまだ安心はできない。ミニョとの接触を極力避け、夜は別々の部屋で寝て・・・という生活を数日間続けた。そして診断から一週間。


「もう、大丈夫、だよな?」


誰かに確認するかのように声に出して言ってみる。

何のことか?

それはミニョとのスキンシップ。

今までキスはもちろん抱きしめることもずっと我慢してきた。こんなに長い間ミニョに触れることさえしなかったのは、一緒に暮らすようになってから初めてのこと。

まずは思いっきり抱きしめて、長い長いキスをして。一緒に風呂に入るのもいいな・・・と、頭の中で今夜のことを考えながら顔をニヤつかせていると、ミニョが外出先から帰ってきた。


「ミニョ・・・」


一週間ぶりに抱きしめようと近づいたテギョンを、ミニョが手を伸ばして拒んだ。


「オッパ、しばらくの間、合宿所に泊まってもらえませんか?」


どこかで聞いたような台詞にテギョンの口元がひくつく。


「ミニョ、まさか・・・」


ふと頭をよぎったのは、数日前、出来上がった楽譜を取りに来たマ室長が、やたらと咳をしてたこと。応対に出たのはミニョで、リビングにいたテギョンにもその咳は聞こえてきた。そして心配するミニョに、「いやあ、俺、忙しいから熱があっても病院に行く暇もないんですよ。みんな俺を頼っちゃって、まいったなー」とありえないことを自慢げに話していたことも。


「あの男・・・よくもミニョに・・・」


テギョンの努力を台無しにされたこともさることながら、マ室長の・・・というのが問題で、大切にしていた花畑に毒をばら撒かれたような気分になり、メラメラと怒りがわいてくる。


「ミニョ、大丈夫か?」


「オッパ、近づかないでください。一度かかってもまたかかるかもしれないって、お医者様が」


テギョンが伸ばした手をするりとかわし、ミニョが距離をとる。


「ごめんなさい、今日からしばらく合宿所に泊まるかリビングにお布団敷いて寝てください」


ペコリと頭を下げ、そそくさと寝室へと消えていくミニョ。


「え?ちょっと待て、俺なら大丈夫だぞ」


テギョンの声は虚しく宙に浮いたまま、ドアは無情にも閉められた。







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