日蝕 32 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

静かでうす暗い店内はオレンジ色の照明が馴染んで見える。棚には色とりどりの酒の瓶が並べられ、カウンターではバーテンダーがシェイカーを振っていた。

店に入った俺の目にまず映ったのは、そんなどこのバーでもよくある光景だった。

店の中は思ったより広く、客の入りは半分ほど。カウンター以外にもテーブルが幾つかあり、運がいいのかそれとも俺のカンが冴えていたのか、そのひとつにミニョが座っているのが見えた。

ミニョは誰かと一緒ではなく、1人で座り携帯をいじっていた。

やっと見つけた。


どうして電話に出ない?

仕返しのつもりか?

本気で俺を避けてるのか?

泊まったのは見舞いだけが理由か?


聞きたいことは山ほどある。

俺は急く心を落ち着かせるために深呼吸をしてから足を踏み出した。

ミニョまであと数メートル。

しかしここで思わぬ邪魔が入った。

ミニョの横をウェイターが通りかかった時、奥から歩いてきた男の客が酔って足がよろけたのか、ウェイターにぶつかった。そしてその衝撃でウェイターがトレイにのせていたグラスが倒れ、中身がすぐ横にいたミニョにかかり、びっくりしたミニョがはずみでテーブルの上にあったグラスを倒し・・・


「おっと」


「うわっ!」


「きゃっ!」


「あっ、すいませんっっ!!」


その瞬間の3人の発した声はだいたいそんな感じだろうか。

それまで落ち着いた大人の雰囲気に包まれていたであろう店内は、一瞬でその一角だけドタバタとしたコメディーに変わった。

ドミノのような一連の流れは見ていて思わず感心してしまうほど。

さすが事故多発地帯だ、座ってるだけで事故がやってくる。

俺がすでにミニョに近づいていればあの事故に俺も巻き込まれていたかもと思うと、なかなかミニョを見つけられなかったのも運がいいと言えるだろう。

そして賢明な俺はすぐにはミニョに近づかない。

まだドミノの続きがあるかも知れないと、少し離れた場所で腕組みしながら事故処理が終わるのを待つことにした。


ウェイターは何度も大きく頭を下げ慌てておしぼりを取りに行くとミニョに手渡し、テーブルの上を片づけはじめた。その間にぶつかった男の連れらしき男がミニョのテーブルへ来て、謝っている。

その様子から、「すいません、こいつ酔ってて」「大丈夫ですよ、気にしないでください」とでも言っているんだろう。

しばらくミニョと男2人が何やら話し、やがてぶつかっていない方の男がカウンターへ行くと、グラスを持って戻ってきた。それはミニョのテーブルに置いてあったものと同じに見えた。そして男2人が再びミニョに話しかけ、もとのテーブルに戻って行ったのを見届けてから、俺は歩き出した。


「ミニョ」


「テギョンさん、どうしてここに」


突然目の前に現れた俺に驚き、ミニョは目を大きく見開いた。

どうして?

それは会いたかったから。

話がしたかったから。

ミニョの心が知りたかったから。

いろんな言葉が俺の口から溢れ出そうとしている。でも今はそのすべてを飲みこんだ。なぜなら先にやるべきことができたから。


「それ・・・飲むなよ」


俺はミニョの前にあるグラスに視線を向けると、それを持ってきた男たちの方へと向かった。





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