加速度のついた太陽は、ゆっくり沈むことを知らないのか、少し前まで赤く染めていた世界をあっという間に暗闇へと塗り替えていった。
バスは走り続け、その後をつけている俺の車も走り続けている。
ミニョはどこまで行くんだろう。そもそもあれは本当にミニョだったのか・・・
車を走らせながら俺は徐々に不安になってきた。
病院の駐車場で待っていた時はまったく現れなかったのに、店に来た途端30分もしないうちにミニョを見つけるとは。
他人の空似か?それとも会いたい気持ちが見せた幻か・・・
どっちでも構わない、バスが停まってミニョが降りればはっきりとする。
俺はバスを睨みつけるように見ながら、どこへ行くのかも判らないままハンドルを握っていた。
田舎の暗闇を走っていたはずだが、いつの間にか街へと近づいていたらしい。道端の街灯の数は増え、家の灯りも多く見えてきた。しばらくすると道は大通りへと繋がり、繁華街が現れた。
その端にある停留所。
降りたのは男が3人と女が4人。そのうちの1人が横断歩道を渡るのを見て俺は思わず「いた!」と叫んでいた。
ミニョだ。
俺は慌てて車を路肩に停めミニョの後を追おうとしたが、信号が赤に変わってしまいすぐに追いかけることができない。
その間もミニョはどんどん遠ざかっていく。
「ミニョ!」
俺は叫んだがその声は目の前を走る車の音にかき消されてしまった。
普段ならそれほど気にならない信号の待ち時間が今はとてつもなく長く感じる。いらいらしながら赤信号を睨み、青へと変わった瞬間、俺は走り出した。
急いで横断歩道を渡り反対側の歩道へ。衣料品や雑貨店など様々な店が立ち並ぶ前をキョロキョロと辺りを見回しながら足早に進むがミニョの姿は見当たらない。
人通りはそれなりにあるが姿をかき消されるほどじゃない。それなのに見つけられないのは、ミニョが俺に気づいていて、わざと隠れたんじゃないかと勘ぐってしまう。シヌが言っていたように、本当に俺のことを避けているのかもと。
どうも俺はこの間のシヌとの遣り取りで少々ナーバスになっているようだ。やけに自信たっぷりだったシヌの態度が俺を焦らせる。
ここは繁華街なんだから、歩道を歩いていなければ隠れたというより、ただどこかの店に入ったと考えるのが普通なのに。
カフェ、ケーキ屋、寿司屋・・・飲食店を中心に、ミニョが入りそうな店を覘いていくことにした。
俺が選んだ店は比較的若い女性客が多く、中に入ると俺に気づいた客が騒ぎ出す。無遠慮な輩にカメラを向けられ、いつもなら眉間にしわを寄せるんだが、今はそんなものを気にしている余裕がないくらい、ミニョを捜すことに神経を集中させていた。
ミニョがいるかと見回し次の店へ。それを何軒もくり返したが、なかなかミニョは見つからない。
「どこにいるんだ」
相変わらず出ない電話をかけながら舌打ちをしていると、ふとある店に目がとまった。
そこはドアと、入り口に置かれた小さな看板に薄暗いライトが当てられているバー。特にこれといって目を引く外観ではないが、なぜか妙に気になる。
俺はドアを開けた。
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