「ヒョーン!」
事務所の廊下をジェルミがスキップしながらやって来る。
あいつはいつも楽しそうで浮かれた性格は俺とは合わないが、悩みとは無縁そうな顔をしているからそこだけは時々うらやましく思う。
「ねえねえ、俺今晩ラジオあるんだけど、テギョンヒョンゲストで出てくんない?予定ではシヌヒョンだけなんだけど、テギョンヒョンはサプライズゲストってことで」
この間俺とシヌが妙に深刻な顔でジェルミの前から消えてから、ジェルミは事あるごとに俺とシヌを近づけようとする。
俺たちが喧嘩していると思い、仲直りさせようとしているのか。だとしたら余計なお世話だな。喧嘩とかそういうレベルの問題じゃないんだから。
「しゃべるのは苦手だ」
俺は忙しいからと手の先でジェルミをあしらい、事務所を出た。
俺は病院へ行くのをやめた。それは仕事が忙しくなったせいもあるが、シヌの言葉が大きかったかも知れない。
『ミニョは迷惑してるんだ、避けられてるのが判らないのか』
ミニョが病院へ見舞いに通ってるのは知ってるが、時間までは判らない。俺も1日中そこにいるわけじゃないから会えなくても仕方ないと思ってた。でも何度電話しても出ないし、メールの返事もないというのは、シヌの言った通り、避けられてるとしか思えない。
それでもミニョが好きだという気持ちに変わりはない。だがもしも俺のことを心の底から迷惑だと思ってるなら話は違ってくる。
今度こそ自分のことだけじゃなくミニョのこともしっかりと見たい。
だから知りたい、ミニョの心を。
合宿所に泊まったのは、見舞いだけが理由なのかを。
夕陽が世界を赤く染めている。赤といっても真っ赤ではなく、そこに黄金色を混ぜたような、ねっとりとした赤い蜂蜜のような色。
その中を、右へ左へと緩やかにハンドルを切りながら、俺は車を走らせていた。
目的地を決めていたわけではないが、俺の車はミニョに会いたかったらしい。気がつくと、この間まで通っていたカフェに着いていた。
人の気配のしない小さなカフェ。
店の南側に面した庭には芝生と小さな花壇がある。
店が休みになってからもミニョが手入れをしているからか、花は鮮やかな色彩を見せ、葉は青々と生命を主張していた。
よく見るとそこには水滴がついていた。土を触るとしっとりと湿っている。
ここに来る途中、雨は一滴も降っていない。
この花壇はついさっきミニョが水を撒いたことを示していた。
「ミニョ」
俺は辺りを見回し、店の入り口へ回った。
ドアノブを掴むが鍵がかかっていて扉は開かない。
もう帰ってしまったのかと地面を蹴った時、ほとんど車の通らない道に、大型車のエンジン音が響いた。
振り向くと田舎道を1台のバスが通っていく。
俺はその窓にミニョの姿を見つけた。
「ミニョ!」
叫びながら俺の足はバスへ向かって走り出していた。しかし声は届かず、バスは無情にも走り去っていく。
俺は車に飛び乗ると、エンジンをふかしてバスの後を追った。
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