撮影の間中、窓の外が気になって仕方なかった。さっきのはやっぱりミニョだったんじゃないかと。
しかし、こんな車もほとんど通らない、バスだって1日に数本しか走ってないような田舎道を、ミニョがとぼとぼと歩いているなんてありえない。
だが、もしも、万が一にも、窓の外にミニョがいたとしたら。
きっと俺は外へ飛び出し、追いかけ、腕を掴み、振り向かせ、その後は・・・
その後、俺はどうしただろう。
電話のことを謝るだろうか。
留守電聞かずに勝手に怒ってごめん。
空港も迎えに行ったけど遅くなって・・・
シヌの車に乗ってくの見えたから・・・
で?
そんなことを言ってどうするつもりなんだ?
俺は自問自答する。
どんなに謝っても、言い訳を並べ立てても、もう遅い。
ミニョはシヌの手を取った。
「テギョン!」
集中できていない俺は監督に呼ばれた。真面目にやれと注意される。
返す言葉のない俺は、黙って頭を下げた。
撮影も残すところあとわずか。目の前のグラタンを笑顔で食べればそれで終了。
丸い皿の中、ホワイトソースの上のチーズはほどよく焦げ色をつけている。しかし撮影用の料理は、いつ作ったんだ?と首を傾げたくなるほど冷めてしまっていて、湯気どころか温もりさえない。その上何かは知らされていないが、わざわざ俺の嫌いな物を入れてあるという。これをおいしそうに食べろというんだからこの撮影、俺の演技力を試す以外の何者でもないなと片頬で笑いながら、冷たいグラタンをゆっくりと口へ運んだ。
しかし今まさに口の中へ入れようとした瞬間、ガシャンと大きな音が店内に響き渡り、俺はピタリとその手を止めた。
当然カットの声がかかり、何だどうしたんだと騒がしくなる。
立ち上がって音のした方を見ると、皿を割ったんだろう、床にたくさんの破片が散らばっていて、しゃがんでそれを拾っている女と、その横には身体を2つ折りにしてペコペコ謝っている女がいた。
スタッフのミスで撮影を中断され、俺は小さく舌打ちをするとわざとガタンと大きな音を立て再び椅子に座った。
俺の不機嫌さが伝わったんだろう、怒鳴り声が聞こえてくる。
「何やってんだ、バカヤローッ!」
「すいません!でも、あの、この人がいきなりお皿掴んでわざと落としたんです」
「はあ?」
頭を下げていた女は破片を拾っている女に視線を向ける。
「・・・誰だお前、知らない顔だな。どうして関係ないヤツが入り込んでるんだ」
その言葉で「誰?」「知らない」とスタッフ同士がひそひそと話し始めた。
俺の位置から女の顔は見えないが、どうやらスタッフではないらしい。女は割れた食器を拾っていた手を止めると、すっくと立ち上がった。
「撮影の邪魔してすみません。急いでたんで、大きな音立てれば食べるの止められるかなと思って」
心臓がドクンと大きく脈打った。
その声は聞き憶えのある声で。
「あのグラタン、エビが入ってます。誤解してるようなんですけど、テギョンさんはエビが嫌いなんじゃなくて、アレルギーがあって食べられないんです」
俺は声を聞いた瞬間、立ち上がっていた。慌てた拍子に椅子が倒れ、その脚に引っかかったがそんなこと気にしていられない。
まさか・・・どうして・・・と思いつつ、邪魔なスタッフを掻き分けその声の主の前に出ると。
そこには、思った通り、ミニョがいた。
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