古ぼけたビルが立ち並ぶ狭い路地を歩く。暗い夜道は夜目のきかない俺には苦手な場所だが、なぜかそこへ足が向いた。
人通りも少ない寂れた街。俯きながら千鳥足の男たちの横を足早に通り過ぎ、打ちっぱなしのコンクリートの階段を下りると、年季の入った木のドアに手をかけた。
ギギギィという鈍い音とともに静かに流れるジャズが、薄暗い店内で鳴り響き俺を出迎えてくれる。
ここへ来るのは何年ぶりだろう。2年・・・3年ぶりくらいか?
俺は軽く店内を見回した。
狭い店にまばらな客は以前と同じ。もともと中年だったマスターも3年くらいではどこも変わらず・・・いや、白髪が増えてるな。
他に変わったといえば、あの頃はマスターだけだった店に、若いバーテンダーが1人入ったことくらいか。
俺はカウンターの真ん中の席に座った。
「いらっしゃいませ」
若いバーテンダーがグラスを磨いていた手を止め、注文を聞こうと近づいてくる。マスターはそれを制し、俺の前にウイスキーの入ったロックグラスを音も立てずに置いた。
琥珀色の液体と気泡のない透明な氷が照明の光を反射し、キラキラと輝く。
「久しぶりだな」
マスターは短く言うと店の奥へと消えて行った。
ビールでも焼酎でもないこいつの呑み方は、ここのマスターに教わった。
俺は夕陽色のグラスに口をつけた。
この店を教えてくれたのはアン社長だったが、社長と呑みに来たことはない。ここへ行けと地図を渡され、シヌとジェルミ、3人で来たのが初めてだった。
その頃はまだデビュー前で3人とも未成年。酒の呑めない俺たちはバーに来ても飲めるのはジュースくらい。どうしてこんなとこへ行けと言われたのかと首を傾げながらジュースを飲んでいた俺たちの前に現れたのは、3人の女だった。
3人とも俺たちより少し年上に見えた。もっとも見た目なんてあてにならないから、もしかしたら少しどころじゃなかったかも知れないが、そんなことはどうでもいい。問題はその女たちがここへ来た理由。
彼女たちは社長が俺たちのために用意した女だった。つまりどういうことかというと、デビュー前とはいえ変な女に引っかかっては困るから、全て秘密にし、全て割り切った関係でいてくれる彼女たちで、性的欲望を満たせということだった。
俺たちは焦った。いや、正確には俺とジェルミか。シヌは最初こそ驚いた顔をしていたがすぐに軽く笑みを浮かべると、誰にするのかと俺とジェルミに聞いてきた。
しかし誰と聞かれても答えようがない。特異なシチュエーションに俺とジェルミは声も出せず顔を見合わせる。
結局シヌの提案で、3人とも寝てみてから気に入った女をそれぞれ選ぼうということになり、俺たちはごく短期間に3人の女と寝ることになった。
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