日蝕 4 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


やっと撮影が終わり、心はすでに携帯の待つ合宿所へと向かっていたのに、監督の「呑みに行くぞ」のひと声で俺は足止めされてしまった。

断りきれず同席はしたが、つき合い程度で切り上げるつもりだった。

それなのに・・・・・・またこいつに捕まった。

10歳以上も年上の女優だが、ドラマを撮り終えた今、俺に管を巻く姿は”こいつ”で十分だろう。

少しでも早く帰りたい俺の足を引っ張り続ける迷惑極まりない女優。

前回は恋愛相談(?)バージョンだったが、今回はどうやらアドバイスバージョンらしい。俺の演技のひとつひとつに細かい注意をしてくる。


「だからあの場面では、傷ついた気持ちをもっと目で表して・・・」


何でそれを今言う?撮影は終わった。どうせなら撮り終える前に言ってくれよと心の中で叫びながら、先輩であるベテラン女優のアドバイスを無視するわけにもいかない。かといっていちいち真剣に聞いてもいられず、顔だけは大真面目な顔で、心をひきつらせ酒を呑んだ。


やっと解放されたのは深夜。

案の定酔いつぶれたこいつをマネージャーに引き渡し、俺はタクシーに飛び乗った。

本当はほろ酔い程度で帰りたかったんだが、あのしつこい話を酒なしで聞いてるなんて俺にはできなくて、すっかり深酒になってしまった。


タクシーの窓の外、暗闇に流れる景色はまるで催眠術のように俺の意識を奪おうとする。

抗っても抗ってもしつこくつきまとい、やがて俺の意識は眠りの世界へと引きずり込まれた。


「お客さん、着きましたよ」


男の声で目覚めた俺は、今自分がどんな状況に置かれているのか全く判らなかった。キョロキョロと辺りを見回し、とりあえずここはタクシーの中で合宿所の前で停まっていることだけを理解すると、俺はタクシーを降りた。数メートルも歩くとタクシーに乗る前のことを思い出した。


そうか、今日もしつこく絡まれたんだった・・・


少しふらつく身体を俺の足は玄関から廊下へと運んで行く。

胃の辺りがムカムカと気持ち悪く、このままベッドに倒れ込みたいところだったが、身体についた酒の匂いが気にくわない。とりあえずシャワーだなと、階段を上ろうとした時、上から下りてきたシヌと目が合った。


「珍しいな、そんなに呑むなんて」


「いろいろあってな」


こうしてシヌと話をするのは何日ぶりだろう。最近はお互いにソロでの仕事が忙しく、同じ家で寝起きしていても顔を合わせるのは久しぶりだった。


「大変だな。・・・そういえばミニョも大変だよな」


シヌの口から出た名前に俺はピクリと反応した。


「何のことだ?」


俺は上りかけた足を止め、シヌを見上げた。


「ボランティアが延びたからに決まってるじゃないか」


何あたり前のこと聞いてるんだとでも言いたげなシヌの声。

俺はそれ以上シヌの話を聞くことなく、急いで部屋へと向かった。




俺は何も聞いてない!

そんな大事なこと、勝手に一人で決めたのか?

まず俺に相談するべきじゃないか。


引き出しに封印しておいた携帯を取り出す。久しぶりに手にした携帯は何回かの呼び出し音の後、ミニョへとつながった。その瞬間、俺は大きな声を出していた。


「どういうことだ、シヌからボランティアが延びたと聞いたぞ。勝手に帰国延ばして・・・・・・お前が帰って来る日のスケジュール空けるのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!」


帰国は目の前のはず。

俺は空港まで迎えに行くため、雑誌のインタビューをずらしてもらい、丸1日かかる撮影を半日で済ませ、空いた時間で曲のアレンジを終わらせ・・・

それ以外にもかなり無理をしてスケジュールを空けた。

それもこれもすべてミニョを空港まで迎えに行くため!

その苦労が水の泡になったかと思うと腹が立った。

いや確かにそれもあるが、それ以上に今俺の頭の中でぐるぐると渦を巻いているのは別のこと。


何で俺がシヌからそんな話を聞かされなきゃならないんだ!


電話からはミニョが何かしゃべっている声が聞こえてくるが、酔いが回り、怒りで頭に血が上った今の俺にはその声は届かない。


くそっ!


俺は電話を切ると放り投げるように携帯を引き出しの奥にしまい、シャワーを浴びに行った。




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