私を月まで連れてって 4 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


家に帰ってテギョンが真っ先に向かったのは洗面所。

何度も何度もうがいをし顔を洗い、鏡を見て大きく息を吐いた。


「びっくりです、あの人が男の人だったなんて。」


ミニョは店に入った時、テギョンの傍にいるのは髪の長い女だと思った。着ている服もシックな女物の服。

それが一歩一歩近づいていくにつれ、何かちょっと違和感を覚え、ん?と首を傾げたくなり。

綺麗にメイクされた顔も、女性ではなく、女装?と一瞬思ったが、男っぽい顔立ちをしているだけで、本当に女性だったらものすごく失礼だなと聞くに聞けず、目の前で起こっていることを黙って見ていることしかできなかった。


「あいつはオネエ系のゲイらしい。いつもはあそこまでべたべたしてこないんだが、今日はあきらかにミニョを意識して、俺のことをからかってた。」


振り解こうにも男の力で絡みつかれ、がっちりと掴まれた腕に妙に柔らかい胸をぐにぐにと押しつけられ、更に唇まで・・・

思い出してしまった感触にテギョンはぞわぞわと鳥肌を立て、頬を引きつらせた。





「結局オッパはエマさんと会ってることを知られたくなくて、こそこそしてたんですか?」


「違う、あいつはただのおまけだ。俺は・・・・・・ロイにジャズを教わってたんだ。」


「オッパが?」


意外な言葉にミニョが目を丸くする。


「クラシックとは全然違うし、中途半端な自己流で満足するようなみっともないまね、俺にはできない。」


やるなら完璧じゃないとな、とテギョンは口の片端を上げた。


ここ数日のミニョのもやもやとした気持ちは全てテギョンの不審な行動が原因で、どうして話してくれなかったのかとミニョは軽く頬を膨らませる。


「明日連れてくつもりだったんだ。訳は・・・後で話す。」


口ごもりながらチラリと時計に目を遣ったテギョンは少し考えた後、そう言った。




”後で”というのがどれくらいの時間をさしているのか。10分なのか20分なのか。それとも1時間、2時間なのか・・・と考えつつ、いつものように2人で夕食を済ませ、いつものようにゆったりとした時間を過ごし。

チラチラとテギョンを見るミニョが「まだですか?」と聞けば、「まだだ」とテギョンが答え。そういった遣り取りが数回繰り返され、すっかり夜も更けた頃、テギョンがおもむろに立ち上がりミニョをピアノのある部屋へと連れて行った。

ミニョをソファーに座らせテギョンはピアノの前に座ると、上半身を捻り、肩を回す。指の関節をほぐし、コキッと首を鳴らしたテギョンは鍵盤へと指をのせた。

1音1音を確かめるようにゆっくりと指が動き出す。


「今日は何の日だ?」


テギョンからの唐突な質問。


「今日ですか?えーっと・・・・・・・・・」


一生懸命考えているのだろうが、視線を上へ向けたまま一向に答えの出てこないミニョに、テギョンがヒントを出した。


「今日は何月何日だ?」


「11月21日です。」


「時計を見ろ。」


テギョンに言われ、ミニョが時計を見ると針は今日だった日を昨日へと変えていた。

11月22日はミニョの誕生日。

テギョンの質問に首を傾げていたミニョの顔が、パッと明るくなるのと同時に、テギョンの指が鍵盤の上を滑らかに滑り出した。

それはゆったりとしたスローテンポなジャズバラードで、メロディーはミニョもよく知っているクラシック曲。しかしそこにテギョン独自のアドリブが加えられ、まったく違った、新しい曲へと生まれ変わる。

その温かみのある音はミニョをそっと包み込み優しく抱きしめる。

テギョンの指が紡ぎだす魔法のメロディーに引き込まれ、時折見せる甘やかな視線にミニョはうっとりと酔いしれた。




ソファーに座ったテギョンはミニョと指を絡めるように手を繋ぐ。ぴったりと寄り添い、ミニョはテギョンと目を合わせた。


「オッパが黙ってたのはこのことだったんですか?」


「ああ、本当は今日、あの店にミニョを連れてく予定だったんだ。」


テギョンのシナリオはこうだった。




ミニョをバーに連れて行き、音楽を聴きながらお酒を飲む。


「ジャズも素敵ですね」


「あれくらい俺にも出来るぞ」


「でもジャズって難しそうですよ」


「俺を誰だと思ってるんだ」


立ち上がったテギョンは颯爽とステージへ上がり、ピアノを弾く。




誕生日のサプライズの筈だった。せっかく内緒で練習していたのに・・・

しかし、前日に店まで尾けてくるという予想外の行動に、思わず笑いがこみ上げる。


「すみません・・・」


「仕方ない、エマみたいなファンが増えても困るし、今回は許してやろう。」


フンとテギョンが鼻を鳴らした。


「今日は特別だからな、どんな曲でもジャズで弾いてやる、リクエストは?」


んー・・・と少し考えてミニョがリクエストしたのは、合宿所でのファンミーティングの時と同じ、 『Fly Me to the Moon』


「もう手じゃ物足りないよな?」


チラリと顔を覗けば少し照れたように視線を逸らすミニョに、テギョンはにんまりと笑顔になる。


「仰せのままに。」


テギョンはすっくと立ち上がり涼しげな顔で一礼すると、エスコートするようにミニョの手を取り、ピアノの前に座らせた。

テギョンの指が優しく鍵盤を撫でる。

指先から溢れ出す音は流麗で、時折小さなジャンプをしながら軽やかに踊る。

楽しげな音と、幸せな笑顔。

テギョンの語りかけるような歌声にミニョも声を重ね、目と目を見交わし心を通わせ。

最後の1音が指から離れると、見つめ合う2人の唇が静かに近づいていった。



――― Fin ―――



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今回のお話は2人に、 『Fly Me to the Moon』 を歌わせたくて作ったお話です。

ドラマの中のファンミーティングのシーンが好きで・・・(〃∇〃)


Fly Me to the Moon・・・邦題は 『私を月まで連れてって』

そのまんまタイトルに使わせてもらいました。





私の好きなマンガに、竹宮恵子さんの 『私を月まで連れてって!』 という作品があります。

その作品との出会いは高校生くらいの時かな?

SFラブコメで、月旅行も火星旅行も行ける未来のお話。


宇宙飛行士の青年がFly Me to the Moonを歌ってて、同僚からはずいぶん古い歌を歌うんだなと言われますが、青年はまったく気にせず心の中で思います。


”ぼくはこの歌のわかる娘と恋をするんだ!”





マンガなんで、歌詞は書いてあってもメロディーはわからない・・・

どんな曲なのかずっと気になってて、20歳くらいの時にCDを買いました。

それからずいぶん経って・・・

イケメンですねでこの曲を聴いた時には「あ、これは!」って妙に嬉しかったな~


曲名も歌詞もロマンチックで私は大好きです(*^▽^*)





それでは、今回はこの辺で・・・

またお話が書けたらアップしますね。




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