You're My Only Shinin' Star (292) 不穏な足音 4 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


夜明け前から始まる撮影の為、前日の夜には沖縄入りしたロケ隊一行。

テギョンがホテルの部屋で一人くつろいでいると、チャイムが鳴った。


「今みんなで飲んでるんですけど、テギョンさんもどうですか?」


ドアを開けた先に立っていたのはヘジン。胸元の大きく開いた服で谷間を強調するように、少し前かがみになって誘うようにテギョンを見つめていた。


「いや、俺はいい。」


テギョンはその姿をチラリと見て顔をしかめると、ドアノブから手を離した。ドアは二人を隔てるようにゆっくりと閉まっていく。

ぶっきらぼうなひと言だけその場に残し、さっさと部屋の奥へ消えて行こうとするテギョンにヘジンは少し戸惑った。

一本目のCMを撮った時のテギョンはもう少し人当たりがよかった。近づき難いオーラは発していたが、それはヘジンを拒絶するようなものではなく、和やかに会話もでき時折笑顔も見せてくれた。

テギョンと仕事をしたことがあるというモデル仲間からは、話しかけてもそっけない返事だけでいかにもめんどくさそうに短い言葉だったと聞いていたから、それと比べるとその差は歴然。

テギョンが穏やかな顔で仕事以外の話をヘジンとしていたことに彼女のマネージャーも驚いていた。


「テギョンさんに気に入られたんじゃないか。」


ヘジンの心が浮き立つ。

何度もぶつかる視線に、自分は”特別”だと思った。

だから今も一緒に飲んでいたスタッフの「テギョンさんも呼ぼうか」「無理だろ」という会話に、「私が呼びに行けば来てくれると思います」とテギョンの部屋へ来たのだが・・・

どうしようかと考える間など微塵もなく、無表情で断りの言葉を即答するテギョンはこの間とは別人のように冷たくて。

なぜ?と考えた瞬間ミニョのことが頭に浮かび、閉まっていくドアを慌てて掴んだ。


「もしかして・・・私のこと、ミニョから何か聞いてますか?」


「ああ、高校時代の友達だってな。」


テギョンはそう答えたきり黙っているが、ヘジンにはとてもそれだけとは思えなかった。冷たい対応にはそれなりの理由がある筈。


「他に用がなければ閉めるぞ。」


「あの、ちょっと・・・」


にべもない態度と無情にも閉ざされたドアを見つめ、ヘジンは唇を噛んだ。





辺りはまだ暗く、夜が明ける前から行われた撮影は天気にも恵まれ順調に進み、昼過ぎには終了した。

帰りの飛行機まではまだ時間がある。テギョンは何かお土産を買おうと街へ出かけた。

賑やかな通りには大勢の人。カラフルなTシャツや工芸品を売る店、泡盛、雑貨屋など、道路の両側には様々な店がずらりと並ぶ。

ミニョなら全ての店に入りたいと言いそうだ、とテギョンは一人心の中で笑いながらどの店に入ろうかとぶらぶら歩いた。


「食べ物は外せないな。」


ミニョへのお土産ならお菓子だなと幾つかの店へ入る。その次に自分用にと泡盛を買い、あとは・・・としばらく歩き、小さな貝殻を使ったアクセサリーショップの前で足を止めた。

中を覗くとネックレスやピアス、ブレスレットなどがたくさん並んでいる。店の中をぐるりと見て回り、テギョンの目にとまったのは、細い金の鎖に淡いピンクの貝殻をあしらったアンクレットだった。

手に取り光沢のある貝殻を光に当ててみる。優しく反射する貝殻は柔らかい色で見る角度によって虹色にも見え、テギョンはミニョに似合いそうだとこれを買うことに決めた。


「お土産ですか?」


後ろから声がし、振り向くとそこにはヘジンが。ヘジンも買い物に来ていて、テギョンがこの店に入るのが見えたという。


「それってミニョにですよね。」


「まあな。」


「ミニョが羨ましいな、テギョンさんが旦那様だなんて。私、少し前に街で偶然ミニョに会ったんですけど、ミニョ、テギョンさんと結婚したことすごく自慢げに話してました。」


ヘジンはテギョンの手元を覗いて含んだ笑いを顔に浮かべた。


「それ、アンクレットですよね。チョイスとしてはいいと思うけど、鎖が細すぎません?もっと太い鎖じゃなきゃ。太くて重い鎖・・・いっそのことアンクレットじゃなくて足枷の方がいいんじゃないですか?ネックレスの代わりに首輪とか。」


「どういう意味だ。」


何でもないことのように明るくサラッと言うヘジンだが、どうひいき目にみてもいい意味にはとれない言葉にテギョンの顔つきが険しくなった。


「え?そのまんまですけど。私てっきりテギョンさんは知ってるのかと・・・ミニョっておとなしそうに見えて、結構男の人と遊んでたんですよ。高校の時も彼氏ころころ変わってたし、二股とか日常茶飯事で。結婚したっていうからそういうのなくなったと思ってたら、こないだ電話した時はシヌさんの話ばっかりしてて。あっ、もしかしたら昨日テギョンさんがいない間に、シヌさんを家に連れ込んだかも・・・」


「俺がそんな話信じると思うか?」


「信じる信じないはテギョンさんの自由です。私も本当はこんな話したくないんですよね、悪口言ってるみたいで。でもテギョンさんが知らないで結婚したなら可哀想だなって思って。」






テギョンはアンクレットを買わなかった。何だかケチをつけられたようで。

帰りの飛行機の中でテギョンはむかむかと腹立たしい気持ちでいっぱいだった。もちろんヘジンの話は少しも信じていない。だからこそどうしてミニョがあんな風に言われなきゃならないのかと余計に腹が立つ。

ミニョはヘジンのことを友達だと言っていたのに、ヘジンからはミニョへの悪意が感じられた。

むかむかとイライラは時間が経つにつれ蓄積されていき・・・


「遅い!」


仁川空港に着き、急いで車を回してきたマ室長を鋭い目できつく睨むと、テギョンは眉間に深いしわを刻んだまま後部座席に乗り込んだ。






「おかえりなさい。」


家に帰るとミニョの笑顔にテギョンはホッと安らぎを感じた。


「何かあったんですか?」


それでも顔に不快の色が残っていたのか、ミニョが心配そうに覗き込んでくる。


「いや、少し疲れただけだ。」


早朝からの撮影に加え、帰りの飛行機では怒りのエネルギーが身体にくすぶり、それが疲労となってたまっていた。

しかしその疲れも、テギョンの買ってきたお土産をおいしそうに食べているミニョの笑顔の前では、炎天下の氷の如くあっという間に溶けていく。


「本当にお前は・・・うまそうに食べるな。」


ひったくりにあったせいか、一人でいることが不安で昨夜はなかなか寝つけず、食事もあまり食べられなかったミニョはテギョンの顔を見て安心したのか、急にお腹がすいてきた。


「だってこれ、すごくおいしいんですよ。」


ニコニコと笑いながらもぐもぐとお菓子を食べるミニョを見て、テギョンの顔にも笑みがこぼれた。




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