ドラマで忙しいスケジュールの合間を縫って、テギョンのCM撮影が始まった。
旅行会社のCMで、出発前と旅行先というストーリーで二本撮る。一本はスタジオで撮り、もう一つは沖縄ロケ。今日はスタジオでの撮影だった。
テギョンはスタジオに入ると相手役のヘジンへ目を向けた。
均整のとれた容姿に意志の強そうな目は、冷たさと華やかさを併せ持って見えた。
”かわいい”は個人の趣味や嗜好に大きく左右され、同じものを見てもそう感じるか否かはかなりばらつくが、”美しい”は趣味や嗜好に関係なく広い範囲で普遍性を持っている。
ミニョが言っていたように、テギョンもヘジンを見て素直に美人だと思った。だからといってテギョンが相手に対する態度を容姿で変えることはないが、ここに”ミニョの友達”というファクターが加わると、少し違ったようだ。
テギョン本人は無意識だったが、撮影の合間など、ふとした時にヘジンに向ける視線の数が多い。ミニョの友達がどんな人物なのか気になるのか、自然と会話も多くなる。
そんないつもとは少し違うテギョンにワンが気がついた。
「テギョン、あの子と前から知り合い?」
「いや、初めて顔を合わせるが。」
「ふうん・・・じゃあ気が合うのかしらね、二人の息が合えば撮影も早く終わるわ。今日はもう諦めてたんだけど・・・この調子なら行けそうね。」
「女子会か?あんまり飲み過ぎないようにしないと、翌朝、ダメージがモロに肌に表れるお年頃だろ。」
メイクを直していたワンの手がテギョンの含んだ笑いでピタリと止まった。早く帰れそうと楽しげだった目が冷たい色をたたえテギョンを見つめる。そして止まっていた指が頬からスーッと顔の輪郭をなぞりながら下がっていき、テギョンのシャツの胸元をぐっと広げた。
「肌のことなら自分こそ気をつけなさい。薄くはなってるけど、キスマーク、ついてるわよ。」
シャツで隠されていた鎖骨の下の辺りに赤い跡があらわれる。
勝ち誇ったように笑うワンから目を逸らし、テギョンは乱れた胸元を直した。
「にしてもあのミニョがねー、へぇー。」
「俺がつけろと言ったんだ。」
仕事柄、人前で着替えをすることも肌を晒すこともあるテギョン。ダメですと言うミニョに、一つだけとつけさせた。もちろんミニョにはその何倍もしるしをつけたが。
胸元の白いムーンストーンと赤い跡。
ミニョは自分のもので、自分はミニョのものだと確認するように二つを見るのが楽しくて、消えたらまたつけさせるつもりでいる。
「いいネタができたわ。」
「まさか女子会で話すんじゃないだろうな。メンバーは誰なんだ。」
「今日はスタイリストばっかよ。大丈夫、ミニョがつけたなんて言わないから。キスマークがついてたって言うだけよ。」
「同じだろう。いや、逆にヘンな誤解されそうだ、絶対に誰にも言うなよ。」
口元を歪ませて睨むテギョンのことなど意に介した様子も見せず、ワンは「どうしようかしら」とからかうように明るく笑った。
撮影の終わった第一弾のCM。二本目のCM撮りはしばらく先で、テギョンは再びドラマで忙しい毎日に戻った。
そんなある日、ミニョにヘジンから電話がかかってきた。あの日街で会って以来、何度か電話で話をしていた。ミナムの見舞いに来てくれたこともある。そして今日は会って話がしたいと言う。
ミニョが店に行くとヘジンはすでに酔っているのか、赤い顔でミニョを迎えた。
「ごめんね、急に呼び出して。どうしても直接会って話がしたくて。」
「ううん、いいけど・・・どうかしたの?」
「相談・・・かな?ああでも何て言われるか想像つくし、ただ聞いて欲しいだけかも。他に話せる人思いつかないし、だから・・・」
その後も、「うーんと、あの・・・」と繰り返し一向に本題に入らないヘジンを、ミニョはよっぽど話しにくいことなのねと急かすことなく待っている。
ヘジンはなかなか話せない自分に区切りをつけるように一度深呼吸をすると、勢いをつける為に手にしたグラスを一気に傾けた。
「あのさぁ・・・こないだ私、テギョンさんのファンだって言ったじゃない。あの後一緒にCMのお仕事して・・・で、気がついたの。私、本気でテギョンさんのこと、好きになっちゃったって。もちろん私なんか相手にされる訳ないしテギョンさんは結婚してるって判ってる。でも、好きっていう気持ちはどんどん大きくなってくし、苦しくて・・・・・・。私、どうしたらいいと思う?」
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