ミニョは本屋に並ぶ幾つもの雑誌の中から一冊を手に取ると、パラパラとページを捲った。
「あ、ヘジンだ。」
そこには撮影用のメイクをし、ポーズを決める彼女の姿が。
「やっぱ綺麗だな。」
あの後ヘジンは、「今度テギョンさんとCM撮ることになったの」と内緒話のようにミニョに告げ、また会おうねと笑顔で去って行った。
「おかえりなさい。」
「何だ、起きてたのか、遅くなるから先に寝てろと言ったのに。」
ドラマの撮影のある日は特に帰りが遅くなるテギョン。先に寝てろと言ってもたいていミニョはベッドにはいかず、ソファーでうとうととしているのだが、今日は玄関のドアを開けたすぐ先にミニョが立っていて、テギョンは少し驚いた。
着替えをすませソファーに腰を下ろしたテギョンの横にミニョがちょこんと座る。いつもよりも距離が近く密着する感じで。
「オッパ、今日私、昔の友達に会ったんです。」
「まさか・・・男じゃないだろうな。」
前に会ったアクセサリーショップの幼馴染は男だった。まさか今度も・・・とテギョンの目が警戒する。
違いますとミニョは今日本屋で買った雑誌を開いて指をさした。
「彼女、ヘジンっていうんですけど、高校の時の友達で、今日偶然街で会ったんです。今度オッパとCM撮るって言ってました。」
テギョンはミニョの指の先を見ながらアン社長が旅行会社のCMをモデルと撮ると言っていたことを思い出した。
「昔から美人だったけど、もっと綺麗になってて。どんなCMになるのかすごく楽しみです。」
美人モデルとの撮影に少しはやきもちを焼くのかと思ったら、笑顔で楽しみだと言うミニョはその後もヘジンの話ばかり。
「俺に彼女を斡旋してるのか?」
口を尖らせるテギョンにミニョはくすりと笑うと、テギョンの肩に頭をもたれさせた。
「今日ヘジンと会って話をして、いろんなことを思い出したんです。高校生の時のことや、シスターを目指してた時のこと。お兄ちゃんの代わりになったことや、オッパが私を引き止めてくれたコンサートのこと。あれがなかったら、今私はここにいないんじゃないかと思うと、こうしていられることが奇跡みたいで。」
「もしあの時、俺がミニョを捜さずそのままアフリカに行かせてたら・・・きっと後悔しただろうな。毎日後悔して後悔して、仕事も手につかなくて。きっと苛々しながらアフリカまで捜しに行ってた。そして捜し出して怒りながらこう言うんだ、俺の見えないところに行くな!って。」
テギョンは肩の重みに顔を向けると口の端をわずかに上げた。テギョンの肩に乗っていた頭が小さく揺れ、ミニョが笑ったのが伝わる。
「夜になったら二人でアフリカの空を見上げて、俺は星をとる。」
テギョンは片手を上に伸ばすとあの時と同じ様に宙を掴んだ。
「じゃあ結局は同じなんですか?」
「そうだな、どっちにしても俺の隣にミニョがいることには変わりないな。」
ふふん、とテギョンが笑うとミニョはテギョンにもたれかかったまま手を取り、指を絡ませた。
「酔ってるのか?」
ミニョからアルコールの匂いはしない。一人で飲む筈もないと思いつつ、ぴったりと寄り添い、猫のように甘えてくる姿にそう聞いた。
「そうですね・・・幸せに酔ってます。」
今ここにこうしていられる幸せ。
大好きな人と同じ時間を過ごせる。
それを与えてくれたテギョンに酔う。
ミニョの目の前に影が降り、唇に温かいものが触れた。そっと触れた唇は小さなリップ音とともに啄むような仕種をくり返した後、深い口づけへと変わっていく。
「・・・んっ・・・」
鼻から抜けるミニョの甘い声にテギョンは唇を離し、ゆっくりと開いていく瞼の奥の黒い瞳を覗き込んだ。
「俺が欲しいか?」
「・・・はい・・・欲しいです。」
普段なら恥ずかしがって小さく頷くだけで、口にはしない言葉。
ミニョのはっきりとした言葉にテギョンは驚いた。
「ずいぶん素直だな。」
「だって、こんな幸せな気持ちにウソはつけないし、ちゃんと伝えたい。それに、もっと幸せに浸りたい・・・」
ミニョの細い腕が伸び、テギョンの身体を抱きしめる。
それは、ミニョの幸せはテギョンそのものだといっているようで。そして、テギョンの幸せもミニョそのもの。
「浸るだけじゃ足りないだろ・・・溺れさせてやるよ。」
そう囁くとテギョンはミニョの身体を抱き上げ、幸せの甘い海へ向かう為、リビングを後にした。
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