You're My Only Shinin' Star (282) 幸せなひととき | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


穏やかな午後の風がレースのカーテンを柔らかくなびかせる。

消毒薬の匂いのする無機質な部屋の中、長椅子に身体を横たえたままヘイは重たい瞼をゆっくりと開けた。


「おはよ。」


笑いを含んだ声のする方へぼんやりとした頭を向けると、ベッドに横になったミナムがヘイの方を見ている。

殺風景であじけない部屋。

白いベッドに横たわるミナム・・・

この場の状況を瞬時に理解したヘイは、がばっと身体を起こした。


「あ、やだ私、いつの間に・・・起こしてくれればよかったのに。」


「あんまり気持ちよさそうに寝てるから。」


起こしちゃ悪いような気がして、とミナムは笑う。

入院しているミナムが一人で退屈だろうと仕事の合間に病院へ立ち寄り、少しおしゃべりでもして次の現場へ行こうと思っていたのに・・・

ここ数日の忙しさからか、ろくに話をする前に長椅子で眠ってしまったヘイは、時計を見ると慌てて立ち上がった。


「ごめん、もう行かなくちゃ。」


「無理して来なくてもいいよ、めんどくさいだろ、こんなとこまで来るの。」


「別に無理なんかしてないわ。私は来たいから来てるだけよ。」


それはヘイの本心。最近何だかやたらとミナムの顔が見たくなる。こうしてちょっとできた時間に病院へ顔を出したり、早く仕事が終わった日は家へ帰る前にここへ寄ったり。

それってミナムが自分にしてたことみたい・・・と思うと少しだけ悔しいような気もする。でもそれは全然嫌な感じじゃない。


「じゃあ行くわね。」


マネージャーが車で待ってるからと、病室を出て行こうとするヘイの後ろ姿に、ちょっと待ってとミナムが声をかけた。


「何か忘れてること、あるだろ。」


ミナムの目が何かを要求している。

その言葉の指すものが何かということは、ミナムの顔を見なくてもすぐに判った。


ミナムの病室に来る。

その行為ははたから見ればただのお見舞いでも、二人にとっては大切な逢瀬のひととき。

たとえわずかな時間でも、傍にいて、相手の姿を目に映し、言葉を交わし、想いをを伝えたい・・・


ヘイはベッドの端に腰かけ、枕の横に手をついた。

ギシリとスプリングの軋む音がする。


「いいな、この体勢。何かすっごくドキドキする。」


ベッドに横になったままヘイを見上げるミナムの顔は、ニヤニヤと笑みが浮かんでいた。


「ちょっとミナム、ヘンなこと想像してる?」


「あたりまえだろ。あ~早く退院したいな~」


「退院したって怪我治んなきゃ無理だからね。」


「ヘイが上になってくれれば大丈夫。」


「やだっ・・・」


顔を赤くしながら二人以外に人のいない筈の病室で、思わずぐるりと首を回し、本当に誰もいないかを再確認してしまったヘイ。


「・・・・・・バカ・・・・・・」


そう呟くとミナムを見下ろし、たらりと下がった長い髪を片側に寄せるように掻き上げ、ミナムの唇へと顔を近づけた。

ミナムはヘイの背中に包帯の巻かれた腕をそっと回す。

互いの息がかかるほど近くに顔が寄せられ、そして・・・


「ミナム~元気~・・・って、うわっ、ゴメンッ!」


これ以上はないというタイミングで横開きのドアが大きく開いた。


「ったく・・・ジェルミ、ノックくらいしろよ!」


「ちゃんとしたよ~」


「しながら開けてたら意味ないだろ!」


突然ドアを開けたジェルミにいいところを邪魔されたミナムはムッと顔をしかめ、ジェルミの声に驚いたヘイは飛び退るようにミナムから離れた。


「俺達に構わず続けたらどうだ。」


茶化すテギョンに、「デリカシーがないわね!」とヘイは顔を真っ赤にして、逃げるように病室から出て行った。






アメリカから帰国したテギョン達は空港からその足でミナムの入院する病院へ来た。


「元気そうだな、その調子なら怪我の治りも早いだろう。」


「どうだろう、俺の元気の源がジェルミのせいで帰っちゃったからなー」


クスクスとシヌが笑い、ミナムはジェルミを軽く睨む。ばつが悪いジェルミは話題を変えようと、アメリカでテギョンに会いに来た女性のことを話すが、余計なことをしゃべるなと今度はテギョンに睨まれた。


「そうだ、テギョンヒョンそろそろドラマの撮影始まるんだろ。」


「ああ、専門用語が多くて台詞覚えるのが大変だ。」


「医者の役、俺も前にやったことあるけど、衣装着て台本読んでると結構覚えれたよ。普段あんなカッコしないだろ、だからその気になるっていうか・・・今度家でやってみたら?」


滅多にドラマに出ないテギョンはそういうものなのかとシヌへ視線を向ける。しかし、聞き慣れない単語の羅列でも、とんでもなく長い台詞でもわりと簡単に覚えることができるシヌは、俺にはよく判らないなと首をすくめる。


「俺はねぇ、何か食べながらが一番頭に入るよ。」


さっきは睨まれたが、この話題なら大丈夫だと嬉々としてジェルミが口を挟んできた。


「一番のおすすめは一口サイズのスナック菓子。無意識につまんで口に入れれるからちょうどいいんだよね~。あとは時々シュークリームとかロールケーキかな。ジュースも必需品だね。脳には甘い物がいいって言うだろ。でも甘い物ばっかじゃ飽きちゃうし、時々辛い物食べるといいよ。その後で食べるチョコの味は格別なんだよね。俺、業務用のマーブルチョコ1キロ買うんだけど、手がべたべたしないし、最高だよ。難点は、すぐになくなっちゃうってことかな・・・」


ニコニコと話すジェルミに、聞いているだけで胸焼けがしそうだとテギョンが苦い顔をする。

撮影中にウエストサイズがどんどん変わるとスタイリストが嘆いている原因はそこにあったのかと、三人は呆れながら顔を見合わせた。




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