「もうこんな時間か・・・チッ!」
レコーディングが長びいた。部屋の時計はいつの間にか、午後十一時を過ぎている。
中途半端が嫌いで妥協のできない俺は、納得のいくまで何度もやり直し、その結果がこれだ。
俺は大きな舌打ちをすると、飛び乗るように車に乗り込んだ。
エンジンをかけアクセルを強く踏めば、俺の焦る心に呼応するかのように車はタイヤを軋ませ走り出す。
時計に目を遣り、目の前を走る車を何台か追い越して俺は更にスピードを上げた。
俺がこんな運転をしてるなんて知ったらミニョは驚くだろうな。そしてきっと怒り出す。
「危ないですからやめてください!」と。
そんなことは俺だって百も承知だ。それでも今は急がない訳にはいかない。
駐車場へ車を滑り込ませ、ほっと息をつくのも束の間、エレベーターへ駆け込むとボタンを押した。
俺しか乗っていない小さな空間は静寂で満ち、早く着けとイライラは募る。
チン!と音がすると、扉が開くのももどかしくエレベーターから飛び出し、玄関のドアを開けた。
「ただいま」
いつもなら俺の帰宅に玄関まで迎えに来るミニョが、今日は姿を見せない。
ダイニングテーブルには料理ののったたくさんの皿。
どう見ても一人分とは思えない量。
その一つ一つにラップがかけられていた。
リビングへ足を踏み入れミニョを発見。
ミニョはソファーに身体を沈ませ、テジトッキを胸に抱き眠っていた。
「ミニョ・・・」
「あ・・・オッパ、おかえりなさい。ごめんなさい、私いつの間にか寝ちゃったみたいで・・・」
浅い眠りだったのか、俺が名前を呼んだだけでミニョは目覚めた。
「ご飯まだですよね、今すぐあっため直します」
立ち上がると急いでキッチンへ行こうとするミニョの腕を掴み、その身体を抱き寄せた。
「ごめん、八時には帰るって言ったのに・・・」
時計はもうすぐ翌日へ変わろうとしている。
「今日はレコーディングだったんでしょ。オッパは手を抜きませんからね、でも・・・そういう時は無理しないで、何かお腹に入れてください」
確かにレコーディングが長びき他のみんなは途中で食事をとったが、俺だけ何も食べなかった。でも別に無理をしてた訳じゃない。腹がすいたと思わなかっただけ。
「そういうお前だって食べてないんだろ・・・ごめん」
テーブルに並べられた料理は手を付けられた様子もなく冷たくなっている。
「私は作りながらつまみ食いしてました」
落ち込む俺を気遣ってか、えへへと明るく笑うミニョがいじらしい。
「さあ、食べましょう。早くしないと特別な日が終わっちゃいます」
レンジとコンロで温め直した料理。
テーブルにつけばおいしそうな匂いに、それまで全く平気だった俺の胃袋は途端に腹が減ったと主張しだした。
それはミニョも同じようで、二人で鳴らす腹の音がダイニングにこだまする。
「ぷぷっ・・・くすくすっ・・・」
顔を見合わせ二人で笑って。
「ほら」
「やったー」
ドン、と置いたシャンパンに目を輝かせるミニョ。
俺が帰って来た時よりも嬉しそうな顔に、俺はシャンパンに負けるのか?と口を尖らせたくなったが、特別な日にこんな時間までミニョを待たせたんだから、今日のところは我慢することにした。
ゆっくりと黄金色の液体をグラスへ注げば、小さな気泡がキラキラと輝きながら上っていく。
パチパチとはじける泡を見つめるミニョの顔はわくわくと嬉しそうで、それを見ている俺は幸せな気持ちでいっぱいになる。
ミニョと出会って五年。
弱いくせに飲みたがるのは相変わらずで、少しは強くなったと豪語するが、世間一般的にみればまだまだ弱い部類に入る。それでも嬉しそうにちびちびと飲む姿は可笑しくて愛おしくて、飲みすぎないように見守りながら一緒に酒を飲むのが俺は好きだ。
ほどよく酔ったミニョは俺に甘えてくるし、少し大胆にもなるからな。
「オッパ、早く」
俺を急かすミニョの声。
それは時間を気にしているのか、それとも早く飲みたいと言っているのか。
時計に目を遣ればあと数分で日付が変わる。
何とか明日になる前に今年も台詞が言えそうだ。
俺はグラスを持つとミニョを見つめた。ミニョも同じように俺を見つめる。そして・・・
「三回目の結婚記念日に、乾杯」
ばたばたと忙しい毎日だが、毎年こんな風に穏やかな気持ちでこの日を迎えられたら・・・
おいしそうにグラスに口をつけるミニョを見ながら、俺は頬を緩めて心の底からそう思った。
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10月7日に「美男ですね放送開始から5周年だってー」というメッセをもらいました。
私がドラマを見たのはその1年後だから、4年も経つんだー・・・としみじみ。
それまでにもいろいろと韓ドラは見てたけど、私がはまったーと思ったのは『宮』と『フルハウス』。
朝、子供を保育園に送った後、帰り道に歩きながら口ずさんでいたのはフルハウスの曲でした(笑)
でも、その後で見た『美男ですね』は次元が違ったー(ノ゚ο゚)ノ
ドはまりもいいとこ(笑)
ハングルの勉強して(今はかなり頭から抜け落ちてるけど)それまで全く縁のなかったパソコンで二次小説を読みあさり、遂には自分でもお話書き始めちゃったなぁ・・・
と、感慨にふけりつつふと思ったのが、
「ドラマの放送開始ってことは、テギョンとミニョが出会ったのもこの日。ということはうちの二人が結婚したのもこの日で・・・結婚までに2年かかってるから、放送開始から5年なら結婚して3年だ!」
という訳で、3回目の結婚記念日のお話になりました。
本編では結婚して1年も経ってないから、今回は少し未来のお話でした。
山もなく谷もなく、これといって甘くもなく・・・(笑)m(_ _ )m
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