物置で見つけた新聞。
そこに書かれていた記事。
思い出せない私・・・
事実を並べることは簡単だけど、私の感情は簡単じゃなかった。
「名前は書いてなかったけど、コ・ミナムの双子の妹って私のことだし・・・ああ、もしあれが三つ子の妹って書いてあったら、お兄ちゃんとは双子だと思っていた私にはそれはそれでショックなことなんだけど、でも、それならそれで絶対自分のことだって思わなかったし・・・でも双子って書いてある以上、やっぱりそれって私のことを指してる訳で・・・」
今日物置で見たものと、自分の考えを説明してるんだけど、話してるうちに興奮してきて自分でも何をしゃべってるんだか判らなくなってきそう。
「でもあの記事のことを誰も何も言わないのは、私がフラれたからなのかなって・・・ああ、もしそうなら、私のことは全然気にしないでください。今まで男の人とお付き合いしたことがない私には、フラれた時の気持ちは、悲しいだろうなって推測することしかできないし、だいたいそれも忘れちゃってたんだから、私のダメージはゼロです。フッた相手が同じ家にいるのは気まずいかも知れませんが、私もなるべく早くここを出て行くようにしますから、だから・・・」
こういうことを胸の前で拳を握って力説するのは自分でもヘンだとは思うけど。
頭で考えるよりも先に口が動いちゃって、とにかく次から次へと言葉を口にした。
まくしたてる私に最初はきょとんとした顔で聞いていたシヌさん。過去の記事を見て私が動揺してるってことは伝わったみたいで、プッと噴き出すように小さく笑うと私の背中に手を当てて、そのまま二、三度ポンポンと軽く叩いた。
「ミニョ、落ち着いて、ちょっとお茶飲もう」
一気にしゃべった私は緊張と興奮も手伝って、口の中がカラカラ。
シヌさんに促され、カップに口をつけると温かいお茶を飲んだ。
「ミニョの言いたいことはだいたい判った。それと知りたいことも」
隣に座っているシヌさんもお茶を飲む。そして手の中のカップをじっと見つめた。
「俺達が何も言わなかったのは・・・ミナムに頼まれたから。事故に遭って心も身体も傷ついてるミニョに、”恋人のことを忘れた”なんて、追い打ちをかけるようにショックを与えたくないから黙っててって。俺達とは何度か会ったことがあるってだけの関係ってことにして欲しいって言われたんだ」
お兄ちゃんが、そんなことを・・・
「ミニョがあの記事を見つけたのはミナムも予想してなかったと思うけど、それにしても・・・・・・俺はいつの間にミニョをフッたことになってるのかな?そんな憶えはないんだけど」
クスクスと笑うシヌさんの目はとても優しくて温かくて。そんな目で見つめられると、何だかドキドキしてきちゃう。
「あ、あの、それってつまり・・・私はシヌさんと、ずっとお付き合いしてたってことですか?」
修道院でシスターになる為に勉強していた筈の私が、何をどうしたらそんなことになるのか想像もつかない。そんなドラマみたいなこと・・・
「ミニョは憶えてないんだよね・・・」
シヌさんが両手で包むように持ったカップに、再びゆっくりと視線を落とした。
うっ・・・それを言われると辛い・・・
こんな大切なこと忘れちゃったなんて、薄情な女だって思われたかも知れない。ううん、その通りなんだから何て思われても仕方がない。
本当にどうして私って、思い出せないんだろう・・・
「・・・ごめんなさい・・・」
「ああ、違う!ゴメン、そんなつもりで言ったんじゃないんだ、事故なんだから仕方ないんだし、今のは完全に俺の失言、忘れて!」
落ち込む私に言葉をかけるシヌさんは、相当慌てたらしく、持っていたカップの中身が波打つと、パシャッて少しだけテーブルに零れた。
「記事のことは気にしなくていい、思い出そうとしなくていいから。思い出せないことで自分を責めたりしないで。過去のことよりも、俺はこうしている今を・・・これからを大切にしたいから」
そう言って微笑むシヌさんの目はいつもよりも何倍も優しく見える。
過去よりも今を・・・
それって、私がシヌさんとお付き合いするってことよね?
思い出した訳じゃないけど、恋人だったんだし、シヌさんにとっては当然のことなんだろうと思う。だけど憶えていない私にとっては、男の人とお付き合いするってこと自体初めてで、考えただけで心拍数が上っちゃう。
そっと隣を見ると、笑みを浮かべながらテーブルを拭くシヌさん。
今まで何も言わなかったシヌさんは、どんな想いで私のことを見ていたんだろう?
どんな想いで私のことを待っていてくれたんだろう・・・
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