シヌさんとテギョンさん。
二人のことが頭から離れない。
シヌさんを見ると鼓動が速くなり、テギョンさんを見かけるとその姿を目で追ってしまう。
どうしてなのか自分でも判らないけど、身体が勝手に反応してしまう。
条件反射?
はぁ~・・・まるでパブロフの犬みたい。
何でもいいから二人のことが知りたい。
古い雑誌がしまってあるとシヌさんが教えてくれた物置。そこには雑誌や新聞が山のように積んであった。
私はそこへ何度も足を運び、二人に関することを読みあさっていた。
私がここへ来る一ヶ月前のもの、二ヶ月前のもの、三ヶ月前のもの・・・と順にさかのぼって読んでいき。
「え?」
新聞を見ていた私はある一つの記事に目が留まった。
『A.N.JELL リーダー ファン・テギョン 熱愛!』
大きな見出しの下に書かれていたのは、テギョンさんがコンサート会場で一人の女性を抱きしめ、愛を告白したというものだった。
記者会見でテギョンさんはその女性のことを、”世界で一番大切にしたい女性”と言ったらしい。
相手の女性は一般人で、顔も名前も一切公表しないとのこと。
私はその記事を見て、なぜだか胸が痛くなった。まるで心臓を鷲掴みにされているような痛みと息苦しさ。
ううん、ちょっと違う。胸というより心が痛い。
心が痛くてたまらない・・・
私はその記事から目を背けるように新聞を畳み・・・でもやっぱり気になって、その頃出版されたと思われる週刊誌を探した。
数冊引っ張り出しページを捲る。どの週刊誌も同じようなことが書かれていて、コンサートの後の記者会見で撮られたものだろうか、少しはにかんだような、私が今まで見たことのない表情のテギョンさんが写ってる。
「こんな風に・・・笑えるんだ・・・」
テギョンさんに恋人?
今まで考えもしなかった。恋人がいたって全然不思議じゃないのに、そんなこと考えたこともなかった。
心が痛い、息が詰まる、苦しい・・・
その苦しさがどこから来ているのか判らないけど、物置という狭い空間が余計に息苦しさを助長しているような気がして、私は逃げるようにそこを後にした。
掃除をした。
掃除機をかけて、床も階段も窓も拭いて・・・
手と足は痛かったけど、何だか身体を動かしたい気分だった。身体を動かしていれば、ちょっとだけ思考を止めていられるような気がしたから。
今日はお兄ちゃんだけが早く帰ってくる。
二人分の晩ご飯を用意して、二人でご飯を食べて。
何かしていれば忘れていられる。
考えたくないことを考えずにすむ。
一体何を考えたくないのか、それすら考えたくなくて、私は食べながらずっとお兄ちゃんに話しかけていた。
食べ終わるとお兄ちゃんは自分の部屋へ行き、私は後片付けをした。
食器を洗い、手を拭いて、エプロンを外し。することがなくなって、一人でそこにいると、昼間見た記事が頭の中に蘇ってきた。
テギョンさんの恋人・・・
どんな人なんだろう?
きれいな人?
優しい人?
テギョンさんはその人とどんな話をするのかな?
そんなことを考えてると、胸が痛む。きっと考えることをやめればこの痛みもなくなると思うのに、なぜか頭に浮かんでしまう。
「ミニョ?」
どれくらいの間そうしていたのか判らないけど、リビングのソファーに座っていた私は、誰かが帰ってきたことにも気づかず、名前を呼ばれて振り向いた。
「シヌさん・・・お帰りなさい」
小首を傾げたシヌさんが微笑みながら立っていた。
「どうかした?ぼんやりしてたみたいだけど、具合でも悪い?」
シヌさんの手が伸びる。
手のひらが私のおでこにあてられて、「うーん・・・熱はなさそうだけど」って。
シヌさんが動くたび、ふわっといい香りがして、条件反射のように私の心臓はドキドキとしてしまう。
このドキドキの正体もよく判らない。でもシヌさんを見てドキドキしている私の頭の中はテギョンさんのことを考えてるんだから、私は自分で自分のことがもっと判らなくなった。
「心配事?悩んでることがあるなら俺でよければ相談にのるよ」
シヌさんは優しい。
その優しさに甘えてしまうのがいいことなのか、いけないことなのかと考える間もなく、私は頭の中のもやもやとしたものを口から吐き出した。
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