うっ・・・鋭い視線が痛い・・・
もしかして私のかん違いかも知れないと思ったから、その場から少し動いてみたんだけど、テギョンさんの視線はその度にしっかりついてきて、ああ、やっぱり私が睨まれてるのねってあらためて思った。
やっぱりずうずうしいって思われたのかな。いくらメンバーの妹で、会ったことがあるっていっても「俺達はアイドルなんだから馴れ馴れしくするな」とか思ってるのかな・・・
「あ、あの、テギョンさん、おはようございます」
私はこれ以上テギョンさんの機嫌が悪くならないように、あいさつだけでもちゃんとしようとそう言ったんだけど、テギョンさんは口元を歪めるとお兄ちゃんの方をチラリと見て、そのまま無言で私の横を通り過ぎ、二階へと行ってしまった。
「はぁ~、私ってテギョンさんに嫌われてるんでしょうか」
テーブルについて、用意してもらった朝ご飯を食べながら、ちょっとため息をついてしまった。
「私って前にここに来たことあるんですよね。その時に何かテギョンさんの気に障るようなことしてしまったんでしょうか」
そうとしか考えられない。昨日私の顔を見ただけで不快な表情を浮かべたんだから。
「うーん、来たことがあるっていうか、何ていうか・・・テギョンヒョンのことも・・・う~ん・・・」
大きなグラスに入った野菜ジュースを飲みながらジェルミさんが何か言い辛そうに言葉を濁している。
「ジェルミさん、何か知ってるんだったら教えてください。もし前に私が何か失礼なことしちゃったなら、きちんと謝りたいんです」
うーんと唸りながらジェルミさんはチラチラとお兄ちゃんの方を見ていたけど、お兄ちゃんはそんなジェルミさんを無視するように何も言わずにご飯を食べていた。
「あ~・・・あ、そうだ!ミニョ、俺のことジェルミって呼んで。”さん”はいらない。俺達同い年だし、前もそう呼んでたから」
私の質問から逃れるように突然話題を変えたジェルミさん・・・ジェルミは、ぐいっとジュースを飲み干すと、「そろそろ出かける準備しなくちゃ」と言ってキッチンから姿を消してしまった。
口に出せないような、そんなひどいことをしちゃったのかなって少し落ち込んでいると、不意に頭の上に何かが乗った。
あ、シヌさんの手・・・
「テギョンのことは気にすることないよ、ミニョは悪くない。ただちょっと・・・いろいろなことに戸惑ってるだけだから」
優しい言葉に、ちょっとだけ気が楽になったような気がする。
シヌさんはお兄ちゃんの方をチラリと見ると、小さく微笑みながら私の髪をくしゃくしゃって撫でた。
お兄ちゃんがくれた雑誌。表紙には”A.N.JELL特集”って書いてある。
A.N.JELLがアイドルグループだということしか知らない私は、とにかく何でもいいからA.N.JELLのことが知りたかった。
ページをめくると四人の写真。お兄ちゃんも写ってる。
お兄ちゃんがアイドルだっていうことに今までピンとこなかった私には、それを納得させるだけのものがそこには写っていて、何だか不思議な感じだった。
四人での活動、個人での活動、仕事に対する姿勢、プライベートなこと。様々なことが書かれていて、私は食い入るように記事を読んでいた。
そして、一枚の写真に目が留まった。
それはテギョンさんが笑顔で写っている写真。
笑顔といっても満面の笑みという訳ではないし、口の端が少しだけ上がっているだけのものだったけど、昨日と今日、不機嫌な顔しか見てない私には、何だか意外に思えた。
「笑ってる・・・」
普通誰にだって喜怒哀楽はあるんだから、今の言葉はずいぶん失礼のような気がするけど、写真を見た私の素直な感想だった。
「ミニョ、お茶淹れたけど、飲む?」
リビングのソファーに座って雑誌を読んでいた私に、キッチンからシヌさんが声をかけてくれた。
「はい、いただきます」
お兄ちゃんもジェルミもテギョンさんもとっくに出かけて、今この合宿所にいるのは私とシヌさんだけ。そのシヌさんももうすぐ仕事に出かけるという。
「俺達の記事、読んでるの?」
ハーブのいい香りがして、コトンと目の前のテーブルに赤いマグカップが置かれた。
「はい、どんなことでもいいから知りたくて・・・」
「ふうん・・・その雑誌今月のだろ?古いのとか他にも俺達のことが載ってる雑誌とか、確か外の物置にあったと思ったけど・・・」
「本当ですか!」
私は声を弾ませてシヌさんの方を見た。
「ああ、それより・・・ミナムから聞いたんだけど、アフリカの病院でもこっちに来る飛行機の中でもあんまり寝てないって。昨夜は眠れた?」
「それがあんまり・・・」
何だか頭の中がもやもやして、それが気になってなかなか寝つけなかったり眠ってもすぐ目が覚めちゃったりで、きちんとした睡眠がとれてなかった。
それを聞いたシヌさんは「ちょっと待ってて」と言って立ち上がり階段を上っていくと、暫くして手に何かを持って下りてきた。
「これ、貸してあげる、俺の愛読書・・・魔法の本だよ」
手渡されたのは一冊の本。
シヌさんはポンと私の頭に手を置くと、じゃあと言って出かけた。
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