テギョンの運転する青いアウディが朝陽を浴びながら早朝のソウルの街を駆け抜けていく。
暑かった夏はいつの間にか過ごしやすい季節へと移り、最近は昼と夜の気温差も激しくなってきて肌寒いと感じる日も多くなってきた。
街の様子も夏から秋へと変わり、人々の服装も秋冬物が目立ちだす。
ソウルにある街路樹はまだだが、ソラクサンやチリサンなどの山間部では紅葉も始まっているだろう。
市街地を抜け田園風景が広がりだすと、テギョンは運転席の窓を少し開けた。
ひんやりとした風が車内へと流れ込む。
頬を撫で、髪を揺らす風は穏やかな気持ちにさせてくれる。
空は晴れ渡り、優しい陽射しの下、こんな日は一日のんびりとミニョと外で過ごすのもいいだろう。木陰にレジャーシートを敷き、ミニョの作ったお弁当を食べ、二人で空を見ながら寝転がり、流れる雲を眺め・・・
ミニョと会うまでの、ミニョと付き合うまでの自分には考えられなかったことに思わず笑いが漏れた。
たとえレジャーシートが敷いてあろうが撮影だろうが、地面に寝転がるなどということは、潔癖症の自分にはやりたくないことの部類に入っていた筈。
それが自分からそんな気になるなんて。
テギョンは窓を閉めると口の端に笑みを浮かべたまま車を走らせ続けた。
目的の場所に着くとテギョンは車から降りゆっくりと歩き出す。
石畳の上を進んで行き、遠くに建物が見えるとその前でじっと立っているミニョの姿が見えた。
「オッパ、おはようございます。」
走り寄って来たミニョはテギョンの前でピタリと止まると満面の笑みであいさつをする。
「おはよう、昨夜はよく眠れたか?」
「お布団に入ったのは早かったんですけど、何だか気持ちが落ち着かなくて・・・ずっと院長様とお話ししてました。でもぐっすり眠れたんで、寝覚めはスッキリです。オッパはどうですか?」
「俺は・・・まあ、いつも通りだ。」
昨日は遅くまでかかるような仕事は入れておらず、早めにベッドへ入ったのだが、ミニョの言うようにテギョンも何だか落ち着かず、なかなか眠れなかった。
しかし普段から眠りの浅いテギョンには、眠れない理由が何であろうと大した違いはない。
「ちょっと、フニ!早くしなさいよ、遅れたらどうするつもり!」
「そんなこと言ったって、荷物が多いんだから仕方がないだろ。」
メイクボックスを持ち、長い髪をなびかせ颯爽と歩くワンと、大きな衣装ケースや荷物を両手いっぱいに持ち、眼鏡をずり下げながらドタドタと歩くマ室長。
「おはようございます、ワンさん、朝早くからすみません。でも本当にいいんですか?今日はA.N.JELLの方もお仕事があるのに。」
「いいのいいの、あっちは他の子に任せてあるから大丈夫。だいたい今私を一番必要としてるのはミニョの方だと思うけど?それにアン社長に聖堂へ行くように言われたから。」
「アン社長に?」
「テギョンが見惚れて言葉も出ないくらい綺麗にしてやってくれって。」
ワンはミニョの耳元で小さくそう言うと、チラリとテギョンを見てクスクスと笑った。
「マ室長、何でこんなとこにいるんだ?」
やっと追いついたマ室長を見てテギョンは意地悪く笑う。
「おいテギョン、それはないだろ。昨日テギョンの目の前でアン社長が俺に言ったじゃないか、「明日は中山聖堂へ行って、A.N.JELLの出番に間に合うように連れて戻って来い」って。」
「俺は自分の車で来たんだからマ室長に連れてってもらう必要はないんだが。」
テギョンの口の片端が上る。
「え?・・・あーほら、カメラマンだって必要だろ?ここに来られない皆の為にも、俺がちゃんとこの記念すべき日をビデオに撮ってだな・・・神父様にも許可はもらってあるし・・・荷物だってワン一人じゃ運べないし、ボートの手配だって俺がしたんだからな~」
俺だってちゃんと役に立ってるぞ~と主張するマ室長をテギョンは横目で見る。
「まさかそのビデオ、テレビ局に売る気じゃあないだろうな。」
「へ?テレビ局?・・・・・・・・・・・・ははは、まさか・・・テギョン、俺がそんなことする訳ないだろ?」
「その 『間』 は何だ、今一瞬考えただろ。」
「誤解だテギョン、確かに金にはなるだろうがテギョンのプライベートを売るなんて・・・俺にそんな度胸がある訳ないだろ。」
それもそうだなと愛想笑いを浮かべるマ室長を鼻先で笑い、テギョンはミニョの肩を抱くとワンと三人で修道院へ向かって歩き出した。
十月初旬。
テギョンとミニョ、二人の幸せな心を表したかの様な澄み渡る秋空のもと。
更なる幸せな生活へ向けての第一歩。
二人の結婚式が今日、中山聖堂で執り行われる。
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