番外編です。
本編よりちょっと未来のお話になります。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
最近何だか夢見が悪い。
理由は判っている。
バレンタインだ・・・
テギョンはバレンタインが近づくと無意識に数年前の出来事に脳が反応するのか、嫌な夢を見ることが多かった。
数年前・・・
それはまだA.N.JELLがデビューして間もない頃のこと。
バレンタインに事務所前で手渡されるチョコに、アン社長も「人気が出てきた証拠だ」と喜んでいた。
甘い物が少し苦手なテギョンは複雑な表情でそれらに目を向ける。
「テギョンヒョン、いらないなら俺が食べちゃうよ~」
隣でさっそく包みを開けチョコをもぐもぐ食べているジェルミに、全部食べられるのもしゃくだと思いテギョンは一つの箱に手を伸ばした。
蓋を開けると中には六個の丸いチョコレート。
一粒つまみ口に入れた。
チョコの中にはラムレーズンが入っている。
「・・・不味くはないな・・・」
もぐもぐとラムレーズン入りのチョコを食べながらメッセージカードを読む。
どうやら手作りのチョコらしく、チョコの中身について書かれていた内容を見ながら二つ目のチョコを口に入れた。
『心を込めて作りました
ロシアンルーレットチョコです
でも大好きなテギョンオッパに変なものは食べさせられないので
私の好きなものばかり入れました
チョコの中身はアーモンド、ピーナッツ、ビスケット
キャラメルクリーム、ラムレーズン、エビ
おすすめは私の大好きなエビです
ミスマッチでなかなかおいしいですよ
テギョンオッパ~ 死ぬほど好きで~す♡』
「!!」
メッセージカードを読み終えた瞬間、その内容と口の中の妙な味に言葉を失ったテギョンは猛ダッシュでトイレへと駆け込んだ。
「ミナム!どっちが多いか勝負だ!」
「OKジェルミ、望むところだ!」
朝からテンションの高いジェルミとミナムは車から降りると歓声と共に群がる女の子達に笑顔を振りまき手を振る。
警備員にガードされた二人が事務所の中へ姿を消すと、彼女達は今度は近くにいたスタッフに群がりプレゼントを渡した。
二人が部屋へ入るとブラインドの隙間から外を覗いていたシヌが振り向く。
「毎年よくあの中を歩いてこようなんて思うな。」
バレンタインの日には事務所の前で待っているファンの数がやたらと多い。
テギョンとシヌは比較的ファンの人数の少ない早朝に事務所に来るようにしていたが、ジェルミとミナムはわざと少し遅れて来ていた。
「ファンサービスしなきゃ。」
「手を抜いてたら来年のチョコが減るからね。」
ジェルミとミナムはニコニコと笑いながら答える。
「チョコ?そんなに欲しいなら俺の分を全部やる、持っていけ。」
テギョンはチョコレート倉庫と化した隣の部屋を指差してうんざりした顔を見せた。
「テギョンには嫌な思い出があるからな。」
「嫌な思い出?俺は死にそうになったんだぞ!思い出で片付けられるか!」
「まあまあテギョンヒョン、落ち着いて。まだ俺達デビューしたばっかで名前もあんまり売れてなかったし、ファンの子がテギョンヒョンのアレルギー知らなくてもしょうがないよ。」
「ふつう、チョコにエビなんて入れるか?何が死ぬほど好きだ、殺したいの間違いじゃないのか!?」
テギョンはファンをかばうジェルミをキッと睨むとペットボトルを握りしめ部屋から出て行った。
一日中あちこちでバレンタインイベントを済ませたテギョンは夜遅く、ぐったりとしてマンションへ帰った。
ファンからのチョコなどいらない。何が入っているのか判らない恐ろしい手作りチョコなど以ての外だ。
俺にはミニョのチョコさえあればいい・・・
笑顔で玄関のドアを開けるミニョを見ながらテギョンはほっと息をついた。
「オッパ・・・えーっと、あの・・・どうぞ。」
夕食の後ミニョが恥ずかしそうに俯きながらリボンのかけられた箱をテギョンへと手渡した。
蓋を開けると中には一口サイズの六個の丸いチョコレート。
「はんぶんこ、するか?」
テギョンはニヤリとすると一粒を指でつまみミニョへと見せた。
「い、いいえ、それはオッパが一人で食べて下さい。あ、食べるというか、舐めて下さい。」
ぶんぶんと大きく首を横に振るミニョに口を尖らせ少し不満げなテギョンは、それでも言われた通り舌の上で転がすように丸いチョコを舐めた。
「ロシアンルーレットチョコです。」
ミニョの言葉にテギョンはドキリとする。
と同時に舌に感じるチョコではない感触。
まさかミニョがエビやカニなど入れる筈はないが、テギョンはチョコの中に入っていた硬い物を緊張しながらそっと口から出した。
口の中から出てきたのは小さな丸いカプセル。中に紙のような物が入っているのが見える。
テギョンはカプセルを開けると中から出てきた折りたたまれた紙を広げた。
「ミニョ、これは・・・」
紙に書かれた文字を読み小さく笑うといつの間にか姿を消してしまったミニョを捜す。
食器棚の陰でうずくまっているミニョを見つけるとテギョンは笑みを浮かべながら小さな紙をミニョへ見せた。
「これはどういうことだ?」
「あの、えっと・・・最近オッパが夜うなされてて、チョコがどうとか寝言で言ってるんです。心配でそのことをシヌさんに相談したら、きっと昔ファンからもらったバレンタインのチョコが原因じゃないかって教えて下さって。だから私、同じ様に中身の違うチョコを作ってオッパに食べてもらったら、昔の嫌な思い出が消えるんじゃないかって思って・・・。でも、普通の中身じゃインパクトないし、色々と考えた結果、そこに辿り着いたんですけど・・・あ、あの、私のことは気にせず、向こうで食べて下さい。」
頬をうっすら赤く染めたミニョは上げていた顔を再び俯けた。
「そういう訳にもいかないだろ、この紙には『手を繫ぐ』と書いてあるぞ。ほら、早く手を出せ。」
テギョンは恥ずかしがるミニョの手を摑むとリビングへと引っ張って行きソファーへ座る。
「その様子だと、残りの五つ・・・期待できそうだな。」
テギョンはニヤリと笑い、二つ目のチョコを口に入れた。
「お・・・次は・・・『ほっぺにキス』か。当然ミニョがするんだよな。」
カプセルから出した紙を読むテギョン。
ミニョは小さく頷くとテギョンの頬にキスをした。
「三つ目は・・・『抱きしめる』と書いてあるぞ。」
テギョンの胸に頬をくっつけ両腕を身体に回しギュッと抱きしめているミニョを見て、テギョンは嬉しそうに笑う。
「次は・・・『唇にキス』か。」
テギョンはクッと笑うと赤い顔のミニョの腕を取り、自分の首へと回させた。
ミニョはひと呼吸置き、少しだけ手に力を入れテギョンの身体を引き寄せる。テギョンの顔がいっそう近付き、ドキドキと鼓動が速くなっていく。
目を瞑り唇にテギョンの温もりを感じた後、手の力を緩めて唇を離そうとしたがテギョンの手が頭の後ろと腰に回され身動きが取れない。
ねっとりと絡められる舌。
控え目に応じていたミニョの舌はやがて少しずつテギョンを求めるように動き始めていた。
「・・・んっ・・・んふっ・・・」
ミニョの口から声が漏れ出すとテギョンはゆっくりと唇を離す。
潤んだ瞳を恥ずかしそうに逸らすミニョを見てテギョンは口元に笑みを浮かべると五つ目のチョコを口に入れた。
しかし中から出てきた紙は白紙で何も書かれていない。
「何だ、ハズレか?まあいい、最後の一個がある。こいつは・・・ん?・・・ぷっ・・・」
六つ目のチョコの紙を見たテギョンは思わず噴き出した。
「あ、オッパ、ひどいです、笑うなんて。私すっごく勇気を出して書いたのに・・・」
「ああ、悪い悪い、気持ちは判る、判るから・・・何となく可笑しくて。」
確かにミニョにはとても勇気のいることだったのだろう。それは字の大きさにも表れていて、その言葉はさっきまでの字と比べるととても小さな字で書かれていた。
『一緒にお風呂に入る』
結婚してから今まで誘うのはいつもテギョンで、恥ずかしがって首を横に振るミニョをちょっと強引にバスルームに連れて行くのがよくあるパターン。
そのミニョが自分から『一緒にお風呂に入る』とは・・・
「よし、さっきの一枚はハズレだったからこれが最後だな。ミニョ、今すぐ入るか?後にするか?どっちにする?選ばせてやるぞ。」
クックッと喉の奥で笑うテギョンはミニョの顔を覗き込んだ。
こうやってミニョを困らせるのは楽しい。
「今」か「後」かとニヤニヤしながらミニョの返事を待っていたテギョンだが、ミニョの答えはそのどちらでもなかった。
「えっと、あの・・・さっきの紙、ハズレじゃ・・・ないんです・・・」
「ん?何も書いてなかったじゃないか。」
「それは、あの・・・」
小さな声で呟くとミニョは顔を俯けたまま言葉を続けた。
「あれはオッパに書いてもらおうと思って・・・あの・・・オッパの、したいと、思う、ことを・・・」
したいと思うこと?
「何でもいいのか?」
ミニョは小さく頷いた。
何でもいい・・・
テギョンの口の両端が上がっていく。
風呂の中で・・・・・・あ、いや、やっぱり出てから・・・いやいや、こんなチャンスは二度とないかも知れない。やっぱり風呂で・・・いや、どうせならまずは風呂で、その後はベッドで・・・しかしリビングのソファーも捨て難いな・・・
よし、大丈夫だ、疲れていたがそっちの元気は有り余ってる。じっくりと朝まで・・・
様々なシチュエーションで繰り広げられるテギョンの妄想。
ミニョは眉間にしわを寄せたり笑顔になったりと表情をコロコロ変えるテギョンを心配そうな顔で見上げた。
「オッパ、どうですか?嫌な思い出は消えましたか?」
「ん?」
そう言えば、ミニョはバレンタインの嫌な思い出を消す為にこうして色々としてくれているんだということを思い出し、テギョンの上がりきっていた口の両端は徐々に下がっていく。
「そうだな、忌まわしい思い出はすっかり消えた。これからはバレンタインといえば今日のことを思い出すだろう。」
テギョンは優しく微笑むと、ミニョの身体をふんわりと抱きしめる。
チョコの中に込められたミニョのテギョンへの想い。
いつも自分の心も身体も気遣ってくれるミニョが堪らなく愛おしい。
「ミニョ、ありがとう。」
そっとミニョの額にキスを落とすテギョン。
ミニョは嬉しそうに微笑むとテギョンの広い胸に顔を埋めた。
そのままじっとテギョンの胸に耳を当て鼓動の音を聞いていたミニョは暫くするとクスクスと笑い出した。
「意外です、オッパのしたかったことが『私のおでこにキス』だなんて。」
「あ?何を言ってるんだ?」
「違うんですか?」
「当たり前だ、俺のしたいことは・・・」
テギョンはミニョの顔を覗き込み小さく笑う。
「その前に、ミニョがしたいのはキスの続きか?さっきのキスじゃ物足りないんだろ?そういう顔してたぞ。まあ俺もその顔が見たくてわざと途中でやめたんだけどな。」
カーッと赤くなるミニョの顔を見てテギョンはニヤリと笑うとそのままミニョを抱き上げた。
「でもまずは風呂だ、一緒に入るんだったよな。」
「え?あの、もうちょっと後で・・・」
「遅い、お前の選択権は時間切れだ。今すぐ入るぞ。」
「え?えっと、あの・・・」
「俺のしたいことは・・・その後だ。」
ニヤリと笑うテギョンに一体どんなことを要求されるのかと少しだけ心配になったミニョ。
「ミニョにとっても忘れられないバレンタインにしてやる。」
耳元で囁かれる低く甘い声。
嬉しそうなテギョンの横顔を見て、白紙の紙なんて入れるんじゃなかったと、ミニョはほんのちょっと後悔しながらテギョンの首にそっと腕を回した。
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甘さ控えめ、というか普段からそれほど甘い話を書いていないのでいつも通り、かな?
タイトル・・・悩むんですよね。
話の内容とかけ離れないように気をつけてるんですけど。
書き終えた後でパッと思いつく時や、タイトルが先に決まる時もありますが、たいてい決めるのに時間がかかります。
今回もかなり悩みました。
幾つか考えて、どれにしようか迷って。
ボツにしたタイトルの一つ。
『舐めて出してそのあとは・・・』
・・・・・・
どんな話だーーっ!
いや、本当はこっちにしようかと思ってたんですが・・・やめました。ひんしゅく買いそうで(笑)
でも、チョコを舐めて、カプセルから出した紙を読んで・・・という話なので、間違ってはいないんだけど。
・・・妙な妄想しません?
どっちがよかった?・・・って、どっちにしても内容は変わらないんだけどね(笑)
その手(どの手?)のお話はきっと他の書き手さまが書いて下さるだろうから、私は手を付けません。
だって書けないんだも~ん。
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