月が星を隠す時間(とき) | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

番外編です。本編よりも未来のお話になります。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


重たい朱色の幕がゆっくりと上がると場内は静寂に包まれた。

幕の上がりきった舞台にはもう一枚白い幕が舞台の前後を仕切る様に垂れ下がっている。後ろからライトで照らされると、白い幕はまるでスクリーンの様に幕の後ろにいる人物の影を黒く映し出した。


静かに流れてくるピアノの音。


『ドビュッシー 月の光』


夜の闇にぽっかりと浮かんだ月が辺りを照らしている様な柔らかい雰囲気は場内全体を包み込み、人々の心に平穏をもたらし和やかな気持ちにさせる。

ゆったりと流れる旋律は穏やかで優しく、日頃忙しく働いている人達の疲れた心をゆっくりと癒していった。


曲が変わる。


『ベートーベン ピアノソナタ第14番 月光』


柔らかいが力強い音色からは悲しみ、孤独といった寂しさが感じられる。

低く沈み込むようなゆっくりとした旋律は、先程のドビュッシーの月とはまた違った光を放っているようだ。

第2楽章ではスピードを増し、第3楽章では激しさを増していく曲はまるで月の光には人の心を狂わせる何かがあるのではと思わせた。


ピアノの音が止む。


暗転の後、舞台全体がライトで照らされると、白い幕の前に一人の女性が立っていた。

青いノースリーブのギャザー入りロングドレスを着た女性・・・ミニョは胸元の星のネックレスを握ると優しく微笑んだ。


白い幕の後ろから先程とはう打って変わって、ゆったりとしたピアノが流れる。


『シューベルト 夕映えの中で』


ミニョの柔らかく滑らかな歌声はまるで場内の空気を一変させたかのように温かみを帯び、じんわりと広がっていく。

穏やかな表情は人々の心に徐々に明かりをともしていくように緩やかに響き渡り、優しい雰囲気は最後まで崩れることなくゆったりと静かに終わっていった。




白い幕が音も無くゆっくりと上がっていく。幕の後ろにはピアノの前に座る一人の男性。

黒いタキシードに身を包んだテギョンは舞台中央に立つミニョと笑顔を交わすと、長い指をゆっくりと鍵盤の上にのせた。


『フランク 天使の糧』


柔らかなピアノの音と透き通るようなミニョの声。艶やかで伸びのある歌声が場内に広がっていく。

二人のステージは毎回必ずこの曲で締め括られる。

二人の始まりの曲であり、ミニョにとっては辛く悲しい思い出の曲。




ミニョの歌声とテギョンのピアノの音が静かに止む。

二人は舞台中央に並んで立ち、深々とお辞儀をした後客席へと笑顔を向けると、場内はわれんばかりの拍手に包まれた。

ミニョは零れんばかりの笑みを、テギョンは控え目に口の両端を上げて。


テギョンがミニョの方を見ると、客席に笑顔を向けたままのミニョ。

テギョンはほんの少しだけ口を尖らせると、力強くミニョの肩を抱いた。

驚き舞台の上で身体を硬くしているミニョの頬へそっと口づける。

一瞬にして顔を真っ赤にし、慌ててテギョンへと顔を向けるミニョを見て満足そうに口の両端を上げると、テギョンはミニョの肩を抱いている手により一層力を込めた。






カーテンの隙間から射し込む朝の陽射しがベッドへと光の筋を伸ばしている。

ミニョがゆっくりと瞼を開けると、目の前にはいつもの大好きな人の寝顔。


今のは・・・夢?


ハッキリとしない頭の中で穏やかな曲が流れている。

ミニョの身体を包み込むテギョンの腕は、少し力を入れれば簡単に外れてしまいそうだったが、ミニョは今見た夢を思い出しながらテギョンの胸に顔を埋め、頭の中で夢の中の曲をハミングしてみた。


「楽しそうだな。」


低く少し掠れた声がミニョの頭の上から響いてくる。


「オッパ、お早うございます。私声に出してました?」


気持ちよさそうに眠っているテギョンを起こすつもりなどなかったのに・・・頭の中で歌っていた筈がいつの間にか声に出してしまっていたのだろうか?


「いや、身体が微かにリズムを刻んでいて楽しそうな顔をしていたから。」


テギョンは緩んでいた腕に力を入れると柔らかい温もりを逃がさないように閉じ込めた。


「夢を・・・見たんです。」


「夢?」


「私がオッパの隣に並んでステージの上に立っていたら・・・客席を見ていた私のほっぺにオッパがキスをしたんです。」


ミニョは今見た夢を思い出しながら瞼を閉じた。


「ああ、あれは確か・・・お前と一緒にやるようになって四度目の公演の時だったな。それまで俺はずっと姿を現さず弾いていて・・・初めてステージの上で一緒にライトを浴びたのに、お前は客席ばかり見ていて俺の方を見なかった。」


テギョンは少しだけ口を尖らせるとミニョの額に自分の額をくっつけ、ミニョの顔を覗き込んだ。


「まさかステージの上であんなこと・・・凄く恥ずかしかったんですよ。」


たとえ頬であろうが大勢の人が見ているステージの上でキスされたことに驚きミニョは目を丸くし、まさかテギョンがそんなことをするとは思わなかった客たちも驚き・・・。

全く動じなかったのは客席で見ていたカトリーヌ一人だっただろう。

彼女だけはテギョンらしいと小さく笑っていた。


ミニョはぷうっと頬を膨らませ上目遣いでテギョンを見るが、互いに尖った口と膨らんだ頬を見てプッと噴き出し、クスクスと笑い出した。


「あの時は俺が初めて姿を現したのに客席からは黄色い声は上がらなかったな。」


「A.N.JELLのステージとは客層が違いますし、それに・・・皆さんピアノを弾いているのが 『ファン・テギョン』 だって薄々感づいていたんじゃないですか?」


A.N.JELLの・・・テギョンのステージにはいつも近くにミニョの姿があった。ならばミニョのステージにもすぐ近くにテギョンの姿が・・・そう思われても不思議はないくらい二人は一緒にいることが多かった。


「そうだな、それにあれはミニョが主役のステージだからな。俺が騒がれる必要はない。」


普段ステージの上では光り輝くことを仕事にしているテギョンも、ミニョの伴奏をする時はミニョの影になることを楽しんでいるようだった。


「でも今夜はオッパが主役のステージです。もう起きないと・・・」


ミニョはテギョンの腕から抜け出すと、ベッドから下り窓のカーテンを開ける。


「ちゃんと朝ご飯も食べないと、パワーが出ませんよ。」


「俺のパワーの源はここにある。」


窓辺で振り返りニッコリ笑うミニョをテギョンは引き寄せもう一度自分の腕の中に閉じ込めると、ミニョの唇にそっと口づけた。


爽やかな朝。

眩しい朝陽。

穏やかな気持ち。

愛しい人。


忙しい一日が今日も始まる。



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土曜日は小学校の運動会。

日曜日は子ども会のフットサルの練習。

そして今日は・・・

子供が代休なので、近所でやっていた「金環日食観測会」へ子供達を連れて行ってきました。

途中から見てたんですが、太陽が欠けていく様子がはっきりと見えました。

生憎雲が多く、ちょうど金環の時に雲で隠れて見えなくなってしまったのが残念でしたが・・・

新月が太陽を隠していって、それまで見えなかった新月の輪郭が金環の瞬間にははっきりと見えるなんて、何か凄いな~って思いました。


今回の番外編は日食にちなんだお話になってます。


テギョンという星(太陽)が、ミニョという月にちょっと隠れてしまう時間(とき)がある・・・そんな感じです。

番外編の 『遠くない未来?』 で、「・・・歌うのはちょっと・・・公演とかはお休みすると思いますけど・・・」 とありますが、その 『公演』 が今回のお話の前半部分です。テギョンが伴奏してたんだ・・・



*:.。。.:゜ *:.。。.:゜ *:.。。.:゜



「オッパって意外と・・・子供っぽいところがあるんですね。こんなに朝早くから一緒に見に行こうなんて。」


「今回は朝早い時間だからな。」


「そんなに好きだったんですか?戦隊ショー。」


「天体ショーだ!」




皆さんは金環日食・・・見えました?




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