「だがよくこんな急な出演依頼受けたな。昨日の今日だぞ。」
朝のワイドショー出演が済み、マ室長の運転で事務所に向かうメンバー。
ミニョの出発まで時間が無い。少しでも人の目を逸らしたくて、アン社長の反対を押し切り、半ば無理やり出演した。
「あ~、これで何とか収まってくれるといいんだけど。」
一番後ろのシートで、ジェルミが心配そうにパソコンを開いている。
「まさか、ドッキリにしちゃうとはね~。名前に、ボランティアの話までして。それにファンの協力って、ただ単にテギョンヒョンの顔が怖すぎて、近寄れなかっただけだろ。大丈夫なの?」
その横からミナムが覗き込む。
「人は秘密にされると、よけい知りたくなるだろ。逆にオープンにすればその情報で一旦は満足する。その隙に・・・・・・。でも、まさかテギョンヒョンの睨みがこんな風に役に立つとはね。ミニョを探してる必死な顔が、よっぽど怖かったんだね。うまい具合に道開けてくれて。いかにも演出っぽくて、こっちも思わず使わせてもらったけど。」
「皆で話し合った結果だ。文句は言うな。」
運転席からマ室長が声をかける。
「俺は・・・あいつとのことを社長にきちんと話をする。」
「何っ?」
テギョンの言葉に思いっきり後ろを振り返ったマ室長を、手だけで前を見ろと指示する。
「ちゃんと恋人だと説明する。」
「おいテギョン。今日は何とか誤魔化したが、噂が消えた訳じゃないんだ。どこかから漏れたらどうする。ミニョさんの周りだって騒がしくなるぞ。ファンだって減るだろうし・・・」
「あいつは明日からアフリカだ。帰ってくるのは半年後。連絡は手紙だと言っていたから、万が一にも仕事中にあいつと電話で話しているのを聞かれる恐れもない。手紙も合宿所ではなく、事務所宛にしてもらう。ファンは・・・たとえ減ったとしても、俺たちがA.N.JELLを続けている限り問題ない。むしろ問題なのは・・・・・・」
「コ・ミナムの入れ代わり・・・」
シヌが後ろの二人には聞こえないくらいの小さな声で呟きながら、チラッとミナムの方に目をやる。
ミニョの歌った『言葉もなく』は、すでに発売されている。
PV試写会が失敗した為、アン社長は挽回策として、シングルの発売を予定より早めてしまった。
ずっとコ・ミナムを嗅ぎまわっていたキム記者。コ・ミナムを女と疑って、空港で服まで脱がせた。
キム記者が『言葉もなく』に目をつけてもおかしくない。
今のところ、何の動きも見せないのが、かえって不気味だった。
「まだ今は・・・社長には話せないな・・・・・・」
テギョンとシヌの目が合った。
○ ○ ○
アン社長にはこってりしぼられたが、ミニョのことは当分の間、公にしないことを条件に何とか許可をもらい、合宿所に帰ってきたのは昼少し前だった。
「ミニョ~、ただいま~」
ジェルミはミニョの姿を見つけると、両手を広げて近づいていく。すかさずテギョンとシヌがジェルミの服の裾を摑み、ハグを阻止する。
その流れるような一連の動きを、後ろから来たミナムが少し驚いたように見ていた。
「お帰りなさい。」
リビングでメンバーの帰りを出迎えるミニョ。
シヌはジェルミを追い越し、ミニョの頭に手を置く。
「ただいま。」
頭の上に置かれた手で髪をくしゃくしゃっとされると、ちょっと首を竦めて恥ずかしそうに笑うミニョ。
「シヌヒョンずるい~。ミニョ、ただいま。」
「はい、ジェルミお帰りなさい。」
ジェルミはミニョの前でニッコリ笑うと、キッチンにいるミジャの方へ向かう。
テギョンは三人の様子を口を尖らせて見ていた。
「テギョンさん、お帰りなさい。」
「あ、あぁ・・・」
ミニョの笑顔に少し戸惑いながら、コホンと一つ咳払いをする。
ミニョの横を通り過ぎる時には、口の端が上がり、ニンマリと笑っていた。
一部始終を見ていたミナムは、ぷっと吹き出した口に手をあて、笑いを堪えている。
― なるほどね。
「お兄ちゃん、お帰りなさい。・・・どうしたの?」
口を押えたまま笑いを堪えているミナムに、不思議そうな顔を向ける。
「いや、今まで四人で生活してて、どんな感じなのかなって思ってたんだけど・・・。判ったような気がする。
「?」
ミニョは相変わらず口に手をあてたまま笑っているミナムをその場に残し、ミジャの手伝いをしにキッチンへ向かった。
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