あの日以降
ハンゾウは俺の元を頻繁に訪れ、
また山を下りて人間の暮らしなんかを見せてくれたり

朝までくだらない話を永遠としたりした。


最初は鬱陶しいと突き返していたが

いつしか俺も
あいつが来るのを待つようになった。


そして人間のことも
今までの考え方を改めかけていた。


人間は嫌いだけど
意外と悪い奴ばかりじゃない。


「人間、ねえ……」


俺はつくづく
自分の境遇に嫌気がさしていた。


「ダイキ、俺さ」


ある日、いつものように俺の元に訪れたハンゾウが
真剣そうな面持ちで呟いた。


「何だ?」


また馬鹿馬鹿しい笑い話でもしだすのか?と少し目を閉じた。



「人間になるのが夢なんだ。」



風が急に音をたてて吹いたので
狼の毛並みが荒くなびいた。


「ダイキ、俺は人間になる。
完全な人間にだ。」

「そんなこと…無理に決まってるだろ」

「何でだ?」


何で、って……
思わず口をつぐんでしまった。

「これは遺伝なんだ、何をどうしようと……」

「出来るといったら?」

「…!?」


人間に

なれる?


俺たち、もののけが?



「ダイキ、お前はどうだ?
人間に…なりたいか?」


考えたこともなかった。

人間になりたいだなんて。


「望めば……なれるのか?人間に。」


俺の問い掛けに
ハンゾウはゆっくりと頷いた。



「もしお前が人間になることを望むなら、俺についてこい。」


ウサギに戻ったハンゾウは
背を向けて走って行った。


「に、人間なんかに誰が……!」


誰がなるものか。



「(……でも、)」



今、足を踏み出せば

もののけという呪縛から解き放たれて
自由になれるのだろうか。


「…………」


自分の境遇に嫌気がさしていた。

もっと自由に生きたい。
もっと自分に自信を持ちたい。
もっと…

自分の存在を認めて貰いたい。



「……待って、ハンゾウ!」


もう足はとっくに動いていた。