「…この指輪は頂くぜ」


女性にはめられている指輪を素早く自分の指にはめる。


「待って、もう外は警官でいっぱいよ。逃げれっこないわ…!」

「…フン、どうだかねえ」

窓にもたれかかり、
外で光るパトカーの赤い光を横目見る。

世界的に有名な宝石デザイナーの屋敷に忍び込んだ俺は
その社長令嬢の指輪を盗むのがミッションだった。

屋敷中のセキュリティなんて俺からすれば玩具の様なもの。
難なく指輪までたどり着いた。


「社長令嬢ってのは苦労するんだねえ…好きでもない男と婚約だなんて」

「…仕方ないわ、私には逆らうことなんて出来ないもの」

俯く女に溜め息をついて、
もたれていた窓から離れる。

すると廊下の方からバタバタと足音が聞こえた。

「……馬鹿馬鹿しいねえ。俺はもう失礼させて貰う」



『奴はどこだ!』
『お嬢様が危険にさらされる前に見つけだすんだ!!』

何十人という警察官が
屋敷の中を走り回る。

この俺を捕まえるために。

指輪を見つめ、クスリと笑う。


「俺は誰にも捕まらない」




女が俺に尋ねる。


「貴方は一体……何者なの?」


黒いハットを被り直し、背を向けて笑った。


「俺の名は怪盗ジョーカー。
…ちゃんと憶えておけよ」




***


俺の名前は仙道ダイキ。
職業?…『高校生』。


「仙道!宿題見せてくれ!」

「いい加減自分で解く事を覚えたらどうだい?この駄目犬が」

「駄目犬だあ!?俺は犬でもねえし駄目でもねえ!」

この男はクラスメイトの郷田ハンゾウ。
親が警視総監で
こいつも将来は警察になるらしい。

俺の一番嫌いな奴。


「警察になれりゃあ頭なんてどうでもいいんだよ!」

「はっ、警察ねえ。警察なんて一番嫌いな言葉だ」

「そういやお前、また昨日怪盗したろ!新聞に一面で…」

「煩い、その話を学校でするな」

「指輪って!指輪が欲しいなら俺が買ってや…痛っ!?」

調子に乗る郷田を踏み潰して
俺は屋上に移動した。


屋上は好きだ。
騒がしい教室にいるのは嫌いで
俺はいつもここに来る。

すると何故かこいつもヒョッコリ現れるわけで。

「仙道」

郷田ハンゾウ。
俺がどんなに突き放してもついてくる。
邪魔で邪魔で
でもいなくなると何だか…、って
何を考えてるんだ俺は。


「何で指輪なんか盗んだんだよ」

隣に座る郷田を少し睨み付ける。

「お前に関係ないねえ」

「別に親父に言おうとはしてねえからよ」

「そういう意味じゃねえんだよ…」

「仙道」

「……」


何なんだ。一体。
そんな事を聞いて何になるんだよ。

「言いたくない」

そうとだけ告げて、俺はその場を離れた。



***

「親父、昨日の事件の社長令嬢…結婚はどうなったんだ?」

帰って早々、どうしても気になった俺は
思い切って親父に聞いてみる事にした。

「…ああ、あれか。可哀想だが婚約は破棄になったそうだ」

「破棄…!?」

「怪盗ジョーカーが盗んだ指輪はな…ただの指輪じゃない」

「え?」

「…婚約指輪なんだよ」

「婚約、指輪?」

「…あれはな、あの令嬢の婚約者の家で代々伝わる婚約指輪なんだ。それがなけりゃ結婚はできないらしい」

古風過ぎる気もするが…仕方ない事だな、と親父は苦笑いした。

「なあ親父、その婚約者ってどんな奴なんだ?」

「……それが結構な年だ。所謂戦略結婚だな。あの令嬢も本当は嫌だったろうに。意外と破棄になって喜んでるかもしれないな」

はっはっはっと笑う親父。
もしかして仙道…

全部わかってて盗んだのか?


あの令嬢が結婚を嫌がってて
その結婚を破棄させるためにあの指輪を…!

「……不器用な奴だなあ」

俺は自然と笑顔になっていた。