「オブシディアンの指環」には、いくつかの宝石が登場する。

 

一つはタイトルにもなっている「オブシディアン」。和名は黒曜石。

それから、琥珀。もう一つが、翡翠だ。

 

黒曜石に琥珀、そして翡翠。

この3つの石を物語に登場させようと思ったのは、

やっぱり登場人物には、飛び道具が必要だと思ったから。

特に、主人公たる藤井夢心≒此花咲弥姫には、それ相応の力が必要だ。

 

いろんな石を見ました。

その石の持つ力やキーワードをいくつも調べました。

そこで、日本や日本人になじみ深いこの3つの石を選んだのです。

 

黒曜石は、「良きものを招聘し、悪しきものは彼方まで吹き飛ばす」

琥珀は、「明日への希望」を表し、

翡翠は、「あなたにとって最も大切な人に贈る愛情と友情の印」。

 

これらそれぞれの特徴が、「オブシディアンの指環」の物語の中に

表されています。

 

夢心が時の回廊の中で、黒曜石、すなわちオブシディアンの指環を咲弥姫から託されたときには、

「それはオブシディアンの指環。悪しきを払い、良きものを呼び寄せる。あなたを導き護る石」

という、咲弥姫の言葉になっている。

 

翡翠は、通常の翠色の翡翠と紅翡翠の2つが登場する。

紅翡翠は、生命の生きる力の象徴として、はじめ蟠桃堂の常連客である木本理砂から夢心へのお土産という形で手渡されるが、物語の最後で、その実力を発揮する。

翠色の翡翠は、木本理砂が所有していたが、物語の中盤で花咲心優に託され、

その結果、心優は命を救われることになる。

 

琥珀については、実は別の物語がある。

 

「オブシディアンの指環」の原型になっているのが、

2018年に松本清張賞に応募した「蟠桃堂の談話室」という作品だ。

 

言ってみれば、「蟠桃堂の談話室」が、僕の処女作ということになる。

 

この「蟠桃堂の談話室」にはサブタイトルが付いていて、

それが「アンバールート」。つまり「琥珀の道」だ。

 

オブシディアン、アンバー、ジェイドの3つの中では、

アンバーが最も早く物語の中に登場した石だと言える。

 

琥珀は日本にもいくつか産地があって、その一つが岩手県の久慈市。

ここには琥珀博物館があり、僕も実際に足を運んだ。

 

琥珀の生成年は、一般的には数千万年~数億年前で、地上に繁茂していた樹木の樹脂が土砂などに埋もれ化石化したもので、「樹脂の化石」と呼ばれることもある。

古いものだと約3億年も昔のものがあり、イギリスのノーサンバーランドや、シベリアで発見されている。

 

久慈の琥珀は約9,000万年前のものが多いそう。

 

この辺りのことが、物語の中では、

「琥珀には万年の時が閉じ込められている。岩永姫は琥珀に閉じ込められている時を解放して、岩のこちら側と向こう側の時を繋ぐ。だから、私たちは岩の扉を通ることが出来る。だが、岩永姫に出来るのは時を解放するところまで。その力を受けとめて時の回廊を渡っていけるのは、姫、あなたの力だ」

                (オブシディアンの指環 第11章 時の回廊)

 

こんな感じに表現されている。

 

青森県にある三内丸山遺跡。

これは縄文時代最大の遺跡とされているが、

いまから約4200年前に寒冷化を理由に放棄されたとされている。

 

三内丸山遺跡から縄文人=原日本人がどのように、日本全国に散らばっていったのか、それを探る一つの手段が、アンバールートだと言われている。

久慈産の琥珀が全国各地、特に奈良の纏向遺跡あたりで多く見つかるらしい。

 

物語の中に登場する宝石の意味を考えながら読んでみると、

また違った見方が出来るかも知れません。

 

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