シリコンインプラントによる再建と自家組織による再建⑤ 〜自家組織再建について〜
おはようございます。
がん研有明病院形成外科の前田です。
シリコンインプラントを入れて、もう8年経つ患者さんから自家組織再建の依頼がありました。
「ずっと思ってた事だけれど、違和感が続いてなんとなく気になるから頑張ってみようと思ったの」との事です。
形がとてもキレイで、術後写真でもみんなでこの患者さんはいいねーと賞賛していたくらいの方。
やはり我々の評価だけでなく、患者さんの希望で再建方法は選ばれていくものです。
さて前回からの引き続きで再建方法ごとのメリットデメリットは以下の通り。
①シリコン
入院期間:3泊4日
手術時間:2~3時間+麻酔時間の1時間
術後安静:術当日
次回外来:手術一週間後
メリット
身体を傷付けずに乳房を作る事ができる
短時間で手術が終わり身体の負担が少ない
手術の次の日には自由に歩け、その次の日に退院できるため拘束期間が短い
デメリット
人工物であるため感染のリスクが伴う
違和感を感じる人がいる
再建乳房が冷たく感じる方がいる
再建乳房が動かない、ゆれない
下垂感は出せない
上胸部の陥凹は残ったまま
②自家組織(腹部の穿通枝皮弁の場合)
入院期間:約2週間(最短で8日で帰られた方がいます)
手術時間:10時間
術後安静:術後3日ベッド上安静、その後トイレ歩行、車椅子、歩行器の期間を経て、一週間程度で独歩
次回外来:退院後1週間(術後3週間)
メリット
自分の身体の一部が乳房になる(人工物を用いない)
下垂感が出せる
感染の心配が殆どない
腹部の脂肪を取るため身体が細くなる
温かい
揺れる
デメリット
手術時間が長く身体の負担が大きい
入院期間が長く仕事をしている人はなかなか時間が作れない
腹部に大きな傷ができる
ちょうど自家組織(腹部)について外来で質問されたので、よく聞かれる質問をピックアップしてみました。
Q1.仕事にはどのくらいで戻れますか?
A.自家組織再建は腹部の皮膚を切除して無理やり縫い閉じてます。腹部に余裕があった方は術直後から真っ直ぐ立てるのですが、ギリギリで切除した方はやや前かがみになって生活する必要があります。術後約1か月程度で徐々にシャキッと立てる様になるので、仕事は力仕事でなく事務作業ならこの頃から問題なく行えます。
Q2.術後ケアで必要なことはありますか?
A.傷の部分にテーピングを3~6か月してもらいます。これは傷が身体の動きで引っ張られるのを軽減させるためです。さらに腹筋を割いて手術をしているので、腹筋の筋力が緩む場所があります。神経が回復するまで固めの腹帯をしっかり巻いて半年程度補強しなければなりません。
腹筋が緩むと、腹部のヘルニア(腹壁瘢痕ヘルニア)を起こす可能性があります。
Q3.自家組織再建が終わって乳首を作るまでどのくらいかかりますか?
A.当院では自家組織再建をしてから一年間必ず待ってもらって、その後に形を整える修正を行います。というのも、自家組織再建は腹部の状態(脂肪の厚みや取れる組織の量)と胸の状態(残存組織が多いか少ないか、放射線照射の有無、TEを併用したかどうか)で、再建の時にぴったりの形にもっていけない場合が多くあります。
移植した組織が生着することを最優先するため、やや大きく作ったり、少し下がった形で作ったりと後日修正を考慮して形成する事がほとんどです。そのため、腫れや組織の安定で形が決まるまで一年くらいかかります。
そこで修正をして、整った後に乳首を作る手術をするので、完成まで自家組織→1年後修正→その半年後に乳首→その半年後に乳輪を作ります。なので大体2年くらいかかると考えて下さい。
Q4.移植した皮膚が死んじゃうと聞いたことがあるのですが、、、
A.腹部自家組織再建は自分の脂肪と、脂肪を栄養する血管を一緒に取ってきて、その血管を他の血管に顕微鏡でつなぎ直して他の場所から栄養をもらおうという手術です。心臓移植とか腎臓移植とかと同じで、組織を移動して血流を確保するもので、それを自分の体内で行っているだけです。
1ミリ程度の血管を切断して移植する場合もあり、つないだ血管に血流が入らず脂肪が死んでしまう場合があります。これはどんなに気を付けていても、当院のデータでは1%の可能性で起こってしまいます。脂肪が壊死した場合は、そこを切除して他の方法で再建しなければなりません。
なかなか大変な手術ですが、柔らかく、ゆれて、温かい胸を手に入れるためには大きな山を乗り越えなければいけないという事かもしれません。
再建方法はその方に合った方法があり、患者さん本人の考え方と残存組織の状態によって勧められる方法と勧められない方法があります。
放射線を当てているとシリコンインプラントは難しい場合が多いですね。。。