はじめに:警備業界の「人の危機」と現実的な解決策

「人が辞める」「隊員が集まらない」—これは、警備業界の経営者の皆様が抱える最も根深く、深刻な問題でしょう。特に交通誘導や施設警備の現場では、人材確保が事業継続の生命線でありながら、有効な打ち手が見つからないのが現状です。

この危機を乗り越えるため、理想論を語る時代は終わりました。今、警備業界が「辞めます」という退職の言葉を恐れず、事業を安定させるために現実的に活用すべきなのが「外国人材」、特に「特定技能」の制度です。

社会保険労務士として、そして警備会社の専務取締役として、貴社がすぐに取り組むべき外国人材活用の実務と、労務管理上の注意点を解説します。


 

1. 警備業は「特定技能2号」で、人材を定着させられる

警備業は2023年8月に、外国人材の在留資格「特定技能」の対象分野に追加されました。特に重要なのは、「特定技能2号」の対象となった点です。

これは、外国人材を「期間限定の労働力」ではなく、「永続的に活躍するベテラン隊員」「将来の指導教育責任者候補」として登用し、定着させることが可能になったことを意味します。

項目  特定技能1号(旧:制限あり)   特定技能2号(新:制限なし)
在留期間  上限5年(更新不可)   制限なし(在留期間更新可能)
家族帯同  基本的に不可   可能(配偶者、子)
キャリア  単純労働者としての位置づけ   熟練した技能を持つリーダー・ベテランとしての位置づけ

 

特定技能2号の解禁こそが、「辞めます」という言葉に怯える日々を終わらせるための、国が提供した最大のチャンスです。


 

2. 特定技能外国人を受け入れるための「実務ロードマップ」

実際に特定技能外国人を受け入れるために、警備会社がクリアすべき主な実務要件と手順を解説します。

📌 ステップ①:受け入れ体制の整備(社労士視点の必須要件)

外国人材は、日本人と同等の労働法規の保護を受けます。特に、以下の3点を徹底してください

  1. 報酬の公正性:外国人であることを理由に、日本人より低い報酬額を設定することは絶対的な法令違反です。同等の業務を行う日本人と同額以上であることを証明する賃金規定を用意してください。

  2. 支援体制の構築:外国人材の生活指導や行政手続きのサポートを行う**「登録支援機関」**と契約するか、自社で支援体制を整える必要があります。

  3. 指導教育責任者の役割:指導教育の際には、多言語マニュアルの整備が急務です。現場の業務指示や緊急時の対応方法を、「やさしい日本語」で伝える工夫が求められます。

📌 ステップ②:採用ルートの選択

  • 国内在住の外国人(技能実習生など):すでに日本にいるため手続きが比較的スムーズです。ただし、「技能実習2号を良好に修了していること」など、要件を満たしているか確認が必要です。

  • 海外からの採用:現地の人材紹介会社を通じて候補者を見つける手法です。時間はかかりますが、自社のニーズに合った人材をゼロから選定できます。


 

3. 【労務管理の要点】「3つの壁」と定着のための具体的な対処法

外国人材の活用にはメリットがありますが、労務管理上、日本人隊員とは異なる「壁」が存在します。この壁を越えることが、離職防止の鍵となります。

壁1:文化・習慣の壁

  • 課題:休憩時間の過ごし方、ハラル対応など、生活習慣が日本の警備現場のルールとぶつかる。

  • 対処法:受け入れ前に「異文化理解研修」を社内で行いましょう。柔軟なシフト調整や、宗教上の配慮(食事の制限など)を可能な範囲で行うことが、法令遵守と信頼関係構築に繋がります。

壁2:日本語能力の壁

  • 課題:特定技能1号の日本語能力(N4程度)は、警備業務特有の専門用語や緊急時の無線交信には不十分な場合が多い。

  • 対処法:「やさしい日本語」を採用した業務指示書やマニュアルを作成し、写真やイラストを多用しましょう。指導教育責任者として、OJTでは一つの指示を複数の表現で伝えるなど、誤解を生まない細心の注意を払う必要があります。

壁3:社会保険の壁

  • 課題:帰国時の年金制度(脱退一時金)に関する問い合わせが多く、手続きが煩雑。

  • 対処法:入社時のオリエンテーションで、社会保険の仕組みについて母国語で書かれた資料を用いて説明しましょう。退職時に慌てないよう、脱退一時金の制度を事前に伝えておくことで、会社への信頼感が向上します。これは社会保険労務士としての私の専門知識が最も貢献できる部分です。


 

まとめ:外国人材は「労働力」ではなく「未来の幹部候補」

警備業界において、外国人材は単なる「人手不足の穴埋め」ではありません。特定技能2号の解禁は、彼らを長期的な戦力、そして会社の未来を担うリーダー候補として迎えることを可能にしました。

貴社が「法令遵守」と「異文化への配慮」を両立させる労務管理を実践すれば、「辞めます」という言葉に怯えることのない、持続可能な強い組織を築くことができるでしょう。

警備業における外国人材の受け入れや労務管理でお困りの際は、社会保険労務士と警備業経営の両面からサポートさせていただきます。お気軽にご相談ください。