入院している9階病棟に、月~土曜日まで、毎朝6時半から部屋や廊下、ゴミを掃除してくださる、清掃のおばちゃんがいます。

私を「お姉さん、お姉さん」と呼び、いつも世間話をしてくれる、気さくなおばちゃんです。

基本的に、おばちゃんは誰に対しても態度が変わらず、
明るく「おはよう。どうもね~」と、みんなに声をかけていきます。


この部屋の中で、最初の事件が起きる前日のこと。


毎日、患者の顔を見ているおばちゃんは、彼女の表情の変化にいち早く気づいていました。

「おはよう。どうもね~。」

いつも通り声をかけた後、
「ん?調子悪いん?あーまだ点滴して、しんどいね~」

と話しかけました。

「すみません・・・ちょ、ちょっと・・・(遠慮してください…)」

と小さな声で答える彼女。

「あーはいはい、ごめんね~。ゆっくり休んで~」

明るい声でカーテンを閉めます。


その日の午前中、最初の事件は起きました。


おばちゃんは、あれ以来、彼女の部屋を掃除する時、
「おはよう。どうもね~。」

とだけ声をかけ、それ以上話しかけることはなくなりました。

そこには、おばちゃんの思いやりを感じました。


事件から2日後、
いつものように彼女に声をかけ、カーテンを閉めようとしたおばちゃん。

彼女が声をかけます。

「いつも、何時に家を出て来るんですか?」

この声に、おばちゃんの輝く表情が見えるようで、嬉しそうにおばちゃんは答えました。

「5時よ~。歩くの遅いから、新宿から20分かかっちゃうからさ~」

「そんなに早いのに、オシャレなピアスして、きれいにしてらっしゃるんですね。」

「いや~。やりっ放しだよ~。もうばあさんだからさ~」

そんな会話の後、

「はい、ゴミ箱、ここ置くね。」

と、おばちゃんがゴミ箱を戻します。


「ありがとうございます」

私が聞いた、
初めての、彼女のありがとうの言葉。


私の顔も、自然とゆるみます。



そして、
今日。


「fromさんのベッドに来ると落ち着きますね」

と、ナースさんが声をかけてくれました。

病人の私を癒すお見舞いのディスプレイは、
ナースさんたちにもその癒しのパワーを与えるようです。

また、別のナースさんが来て、
色々見て、お喋りにお付き合いしてくれました。


そして10分くらいした時、

カラカラと点滴を引きずり近づく気配がします。


「すみません…ちょっといいですか?」


彼女が、
私のカーテンを開けてくれたんです!


「ナースさんたちが、みんなお喋りしていくから、編み物?されてるの?私も見たいなと思って」


高揚する気持ちを一生懸命抑えて、
しばらくお喋りしました。

編み物のこと、
レシピ本のこと、
点滴はやだね、とか、
食事、味しないね、とか、
子供は大変よね、とか。


たくさんお喋りをして、
「これ、読ませてもらってもいい?」
と、
レシピ本を持ってベッドに帰って行きました。


人の心って、こんなにも複雑で、
見えなくて、わからなくて、
理解できなくて、してもらえなくて、

なのに、

思いはきちんと通じる。
まっすぐな心があれば、必ず心は通じるんだ、
そう信じることができました。


空がずっと続いてるように、
心も必ずつながっています。

奇跡みたいなこのお話、
私の個人的な脚色はあるけれど、私に起こった、本当の話です。

おわり。

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