
はるののに すみれつみにと こしわれぞ のをなつかしみ ひとよねにける
「野には菫を摘みに来ただけなのに、離れがたくて一夜過ごしてしまった」


いにしへの あきのゆふべの こひしきに いまはとみえし あけぐれのゆめ
「遠い昔の秋の夕暮れさえ恋しいのに、もうこれきりと思われた夜明けの夢よ…」

みるほどぞ しばしなぐさむ めぐりあはむ つきのみやこは はるかなれども
「月を見ていれば心が慰められる。都に戻れるのは遠い先になろうが」


はかなくて おなじこころに なりにしを おもふがごとは おもふらむやぞ

わびしさを おなじこころと きくからに わがみをすてて きみぞかなしき
「夢うつつのうちに同じ心になってしまいましたが、私が思うようにはあなたは思って下さらないでしょうね」
「この胸の苦しさはあなたも同じだとお聞きしては、もはや我が身はどうあれ貴女が愛おしくてならない」


かれはてん のちをばしらで なつくさの ふかくもひとの おもほゆるかな
「枯れることも知らず深く繁る夏草のように、離れてしまうことも考えず深く深くあの人を思う」

いのちこそ たゆともたえめ さだめなき よのつねならぬ なかのちぎりを
「命なんて絶えてしまっても、二人の仲はそういう生き死にを超えた繋がりなのだ」