キャプテン!カレー沖でエル・アルコンの爆破を確認しました! | 親愛なるエロイカへ

キャプテン!カレー沖でエル・アルコンの爆破を確認しました!

宝塚舞台化の原作。
青池保子著「七つの海七つの空」
秋田書店/ハードカバー版/1986年

「エル・アルコン-鷹-」。
青池保子著「七つの海七つの空」「エルアルコン -鷹-」を題材にした宝塚歌劇団の舞台である。
去年の兵庫に引き続き、東京では2008年1月2日から上演されている。
青池保子氏のファンとして、そして宝塚に食わず嫌いの抵抗感があった私は、かなり長い間、舞台に足を向けるべきか否か迷っていた。

その一方で、青池保子氏の公式WEBサイトでは、作者ご本人が
「まさにティリアンがいる!」「最後の爆破シーンでは落涙した」と絶賛しているではないか。
そうか…。
宝塚の舞台はDVD化されているが、やはり舞台はライブを見てこそナンボである。それに、青池氏のキャラクターを宝塚劇場で生で見られるなんて機会は、おそらく後にも先にもないだろう。
何より作者本人が満足しているというのなら、おかしなものであるはずはない!躊躇してチャンスを逃してはならん!
と、ようやく決意をし、重い腰をあげてチケットを入手するにいたった。

劇場へ

宝塚初体験の私にとって、劇場に踏み入れたときから、まるで初めて有名な観光地にきたおのぼりさんの気分であった。
やや戸惑いながら正面の赤い絨毯の階段を上る。横にはグランドピアノが置かれ、天井にはシャンデリアが吊るされている。初心者にとって、それだけですでに気分は宝塚だ。(笑)
2階の売店のお土産をのぞく。S席は3階だ。エレベーターで上りながら周囲の客層を見回す。

見たところの印象では、中心層は40代だ。それから50代。20~30代はほんのわずか。
そして男性は1割程度。

開幕前に閉められている舞台の幕には、青池保子氏がカラー絵によく使う「ノルウェイブルー」の
ブルー地に、大きな鷹がその中央に描かれている。
そして1枚3メートル長程の羽の装飾が幾重にか重なって、キラキラと舞台の両はしを縁取っていた。

舞台のキャラクターと役者たち

舞台は、雪の舞う寺院でティリアンが父エドリントンを刺すシーンあたりから始まり、
次にティリアン、女海賊ギルダ、ルミナス・レッド・ベネディクトらメイン人物達が勢揃いし、
主題歌を歌う華やかなプロローグシーンへと続く。
バックの大スクリーンには、それぞれの3人の顔と共に、大海原にカモメが飛び交う
映像が映し出される。独特の表現方法だと思ったが、これから始まる海洋活劇の
ドラマティックさが伝わってくる。

主題歌「エルアルコン-鷹-」。
この話の世界に自然にとけ込むようなメロディラインで、なんか、いい感じではないか。
パンフレットを見てみると、なるほど、作曲は寺島民哉氏。
「ゲド戦記」や日本アカデミー賞受賞の「半落ち」を手がけた実力者だった。

主役のスターたちは、さすが声量もあって、歌も上手い。
ギルダ役、遠野あすかは表情もいいし、声のキーがものすごく高い。
素の写真のかわいらしい顔からは想像もつかない程に迫力のある歌声だ。
キャプテン・レッド役の柚希礼音はかわいらしい若々しさが魅力的だった。


そして安蘭けいのティリアン。

おそらく当時の少女漫画でもそうだったように、
野望のためには血の涙さえ流さない悪のヒーローなど、
宝塚にとってもかなり異質なキャラクターだったに違いない。

淡々と権力を掌握し、害となると判断すれば自らの手で女性も殺す。
すべては七つの海を制覇するため------、自分の内面を決して出すことなく、徹底した目的意識を
持って自分のスジを通しきるこの男性像は、今日の青池保子氏の世界に引き継がれているものである。

目力、冷酷さ。華麗さ。
安蘭けい演じるティリアンが長い黒髪とマントをひるがえし、
舞台に登場するその姿を目にするたびごとに、
いつのまにかその‘彼’に惹かれている自分に気づく。
青池氏の漫画の中で、美しく魅力的なサド目の男を追うのと同じ思いで。

ああ、青池氏の言っていたのはこれなのか。
確かにロマンティックな悪のヒーロー、ティリアンを、私もこの舞台の上に感じていた。

宝塚とマンガ

メインの男性役スターたちは、みな背が高く、顔も小さく、当然、女性なので美しい。
長いマントと長いウェーブの髪をたずさえた『彼ら』のその立ち居振る舞いは、
なんともロマンティックであり、その中性的で華麗な美しさは、そう、まさに、
洋物少女漫画の世界の男たちと重なるのだ。

そういえば、観客層で最も多い40代(と見えた)の人たちと言えば、10代の多感な時期に、
少女漫画黄金期の美しい世界を、たっぷりと堪能してきた層ではないか。

70年代のあのようなロマンティックな少女漫画の世界を美しいまま実体化することができたのは、
まさに宝塚だからこそ成せたわざだったのかもしれない。


* * * *


ステージの物語の構成については、すでに読んでいた評の通り、
話はやや急ぎ足で詰まり気味の展開である。
原作をあらかじめ知っていないと、この舞台のスピードにはついていけないだろう。
この舞台のために通して読んでおいて正解だった。
それでも、やや分かりづらいところがあったのは事実である。

ただし総合的に言えば、この宝塚初体験の舞台を私は十分に楽しめた。
そして青池保子氏の世界が、宝塚の美しい舞台で実体化し、それも『成功』した形で
生で見られたことが、何よりも嬉しかった。

重要なティリアン役の安蘭けいは、漫画のイメージを損なわないよう注力したという。
男性役としては小柄であるが、ティリアンの存在感を十分に放っていた。


楽しい体験をさせてもらったよ!
ありがとう!美しいタカラジェンヌたち。



( 次回のエントリーで「ティリアンとギルダの関係」を予定)