ドケチ虫 | 親愛なるエロイカへ

ドケチ虫

青池保子著「エロイカより愛をこめて」シリーズの中でも、初登場から回を追うごとに
特異なる変貌を遂げ、特に『新生エロイカ』以降はその計り知れない奇人変人街道を
ひたすらつき進む「ジェイムズ君」。


伯爵には、知らない人とは口を聞てはいけないと普段から言われており(グラスターゲット)、
拾った携帯電話が鳴って出れば、相手には「子供」と思われて(ビザンチン迷路)、
金の匂いを追っていたら道に迷って拾われて、収容された病院先で
“いっぱい食べていっぱい寝たからもう帰ろう”と保護者 (伯爵) が迎えにくるのを待ってる
(ケルティック・スパイラル) 。

「パリスの審判」では、その絵画のために少佐やミーシャに追われ、
ホテルに戻って絵を大事そうに抱えながら机の下で疲れてはてて眠るジェイムズ君。


ファンの方なら、少佐や伯爵の年齢を、一度や二度は興味深く推測したことがあるだろう。
しかしながら、私が思うにジェイムズ君とは、登場人物の中でも最も年齢の推測が困難と思われる
キャラクターではないだろうか。

「計理士 / accountant」という立場ではあるが、果たして正式な資格を持っているかは
やや疑問である。自称かもしれないし、単に『金銭への意識がずば抜けて高い』ので
浪費家のグローリア伯爵にはちょうどいいからと、常識的感覚のボーナム君あたりがそう判断して
雇用した経緯があるのかもしれない。


「ぞうきん虫」 「ドケチ虫」 「ゴミ」 「便所虫」

ややもすると、パワー・ハラスメントやモラル・ハラスメントと取られかねない嘲笑的な呼ばれ方だ。
あのしごくマジメなA君さえ、普通に「ドケチさん」と呼び、伯爵さえが「原生動物」とも言った事が
あるくらいだ。おお、最近では「ゴキブリ」さえあった。

しかしそう呼ばれながらも当然顔のジェイム君だから、これでいいのだ。


今のところDc Comicsで正式出版されているシリーズ内の「ドケチ虫」という言葉には
次のような訳が当てられている。

 
ドケチ虫 TIGHTWAD

※tightwad: しみったれ、けちん坊 といった意味の俗語。

ふむふむ、なるほど。明快だ。


また一方での話だ。
先日あるフィクションをざっとチェックしていた所、
この「ドケチ虫」に相当する英語が目に入った。


SCROOGE

STINGY-BUG

※stingy:けちな、しみったれた、せこい
※bug:小さい虫、ばい菌、害虫
※Scrooge:守銭奴


この「STINGY-BUG」の言葉を見て、この作者は スキャンレーション の読者だと思った。
有志が訳したスキャンレーションからこの言葉を持ってきたと思われたからだ。
「泣き虫」「弱虫」といった「虫」付きの表現は、日本語特有のものだ。
この言葉通りの訳でも意味はなすだろうが、この日本語まんま感はどうもプロの仕事とは
思いにくい。
【虫
9-ア:あることに熱中する人。「本の----」
9-イ:ちょっとした事にもすぐにそうなる人、あるいはそうした性質の人を
あざけっていう語。「弱---」「泣き---」

広辞苑 第五版 岩波書店より (CASHIO EX-word版)

ただし、2004年より以前から活躍しているファンフィクション作家の大方は、
ファン内で出回っていたスキャンレーション等でエロイカを読み、それを元に
話を作り上げていると思われる。なのでこの作者に限ったことではないとは思うが。


BUGには「虫」以外に 「ばい菌、病原菌」という意味さえある。


彼を 「ケチな病原菌体」と表現しても、確かに的外れなことではない。
結果的には面白い訳になっているともまあ、言えなくはないのかな。