パルス:グレッグ・フィリゲインズ | かえるの音楽堂

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093-PULSE













PULSE:GREG PHILLINGANES
(1984年)
 セッション・キーボード奏者、コンポーザーとして超売れっ子のグレッグ・フィリゲインズのセカンド・アルバムです。グレッグはスティーヴィー・ワンダー、クインシー・ジョーンズといった大物達から必要とされ、彼らのアルバムや彼らが関わった多くのアーティストの作品やツアーに参加し、その素晴らしいキーボード・プレイを聴かせてくれました。1979年から1981年の2年間の間にはクインシー・ジョーンズ関連でもクインシー・ジョーンズの“ザ・デュード”、マイケル・ジャクソンの“オフ・ザ・ウォール”、ジョージ・ベンソンの“ギブ・ミー・ザ・ナイト”、ブラザース・ジョンソンの“ライト・アップ・ザ・ナイト”他の多くのヒット・アルバムに参加しました。グレッグはそんな多忙な合間を縫って、ファースト・アルバム“SIGNIFICANT GAIN”を発表しました。ファースト・アルバムは名プロデューサー、リチャード・ペリー主宰のプラネット・レーベルから、自身のセルフ・プロデュースで制作されました。

その後も多くのプロジェクトに参加し多忙な毎日を送るのですが、そんな中でグレッグはクインシー・ジョーンズやロッド・テンパートンと共にマイケル・ジャクソンの家で行われたミーティングに参加しました。そこであのモンスター・アルバム“スリラー”に収録された楽曲を聴くことになりました。“ビート・イット”、“ビリー・ジーン”といったその後大ヒットを記録した作品以外に色々な曲を聴かされたグレッグが、結局は“スリラー”には収録されなかった、ある1曲を非常に気に入りました。その曲はグレッグのセカンド・アルバムに収録されることになったのですが、それが教授こと“坂本龍一”作曲でYMOの“ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー”の収録曲である“ビハインド・ザ・マスク”でした。この曲はクリス・モズデルが作詞したものですが、元々は坂本龍一がセイコーのCM曲としてすべて手弾きで制作した曲がベースとなっています。マイケル・ジャクソンのバージョンはマイケルによる補作詞及びメロディを追加したもので、グレッグのバージョンはマイケル版を元にし一部クリス・モズデルの歌詞が使われた部分もあり、クリス・モスデル自身はグレッグ版を気に入っているそうです。

またグレッグがエリック・クランプトンのバンドのメンバーになっていたことから1986年のエリック・クラプトンのアルバム“オーガスト”にもマイケル版が収録されました。また坂本龍一自身はマイケル版をセルフカバーしました。この曲は海外ではYMOのツアーでも大人気だったそうで、坂本龍一自身も何故か分からなかったそうです。その後本人達やその他色々な人の分析によれば、まずコード進行が単純なロックのコード進行(F-D♭-E♭-Cm/C)であること。テクノポップの中でもテンポがゆったりしていること。コード進行がブルースに似ているので歌いやすいなど挙げられています。

セカンド・アルバムにはこの曲以外にもロビー・ネヴィル、ジャッキー・ジャクソン、そしてドナルド・フェイゲンの書き下ろし曲など注目曲が収録されています。参加メンバーはロビー・ネヴィル(g)、ジョン・ロビンソン(ds)、ネイザン・イースト(b)、パウリーニョ・ダ・コスタ(perc)、マイケル・ボディッカー(vocoder)、ポインター・シスターズ、ジェイムズ・イングラム、ハワード・ヒューイット、フィリップ・イングラム、リチャード・ペイジ(vo)、ジェリー・ヘイ(tp)他です。

1.BEHIND THE MASK(ビハインド・ザ・マスク)
2.WON’T BE LONG ( ウォウント・ビー・ロング・ナウ)
3.PLAYIN’WITH FIRE(プレイン・ウィズ・ファイア)
4.I HAVE DREAMED(アイ・ハヴ・ドリームド)
5.COME AS YOU ARE(カム・アズ・ユー・アー)
6.LAZY NINA(レイジー・ニーナ)
7.SIGNALS(シグナルズ)
8.COUNTDOWN TO LOVE(カウントダウン・トゥ・ラヴ)
9.SHAKE IT(シェイク・イット)

 1曲目「BEHIND THE MASK(ビハインド・ザ・マスク)」オリジナルのYMO版では坂本龍一がヴォコーダーで歌っていました。グレッグのバージョンはマイケル・ボディッカーがヴォコーダーを担当しています。YMOのバージョンに近い感じでテクノにソウルっぽさの加わった演奏です。2曲目「WON’T BE LONG ( ウォウント・ビー・ロング・ナウ)」は“セ・ラ・ヴィ”のヒットで知られるロビー・ネヴィルとマーク・ミュラー作です。バックのコーラスはポインター・シスターズです。この曲もベスト・トラックです。3曲目「PLAYIN’WITH FIRE(プレイン・ウィズ・ファイア)」ジャッキー・ジャクソン作でアレンジもジャッキー・ジャクソンです。ホーン・アレンジはジェリー・ヘイです。4曲目「I HAVE DREAMED(アイ・ハヴ・ドリームド)」ロジャース&ハマースタイン作で、グレッグがドラマスティックに歌います。5曲目「COME AS YOU ARE(カム・アズ・ユー・アー)」ブロック・ウォルシュとロビー・ネヴィルの作のアップテンポなナンバーです。6曲目「LAZY NINA(レイジー・ニーナ)」はスティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンがこのアルバムのために書き下ろした作品です。そのまんまスティーリー・ダンっぽい曲です。この曲も注目のナンバーですね。7曲目「SIGNALS(シグナルズ)」はリチャード・ペイジ、グレッグ、ネイザン・イーストらの共作です。曲中のブレイクではモールス信号を使ったリズム・パターンが使われており、それがアルバム・タイトルの“PULSE(パルス)”に繋がります。8曲目「COUNTDOWN TO LOVE(カウントダウン・トゥ・ラヴ)」はケニー・ヴァンスとマーティー・キューパースミスの作で、1950年代のドゥワップ・スタイルを用いた曲です。9曲目「SHAKE IT(シェイク・イット)」はアンソニー・マニネリ作の当時のシンセサイザー技術を駆使したエレクトリック・ファンクな作品です。1曲目だけが話題になりますが全体に良い曲が揃っています。非常に出来のよい作品でしたが、セールス的には“BEHIND THE MASK(ビハインド・ザ・マスク)”がクラブ・チャートで5位になったくらいであまり成功したとは言えません。今聴いても古くさくないですし当時はまだ早すぎたのかな。また再評価されるといいですね。そして久しぶに新しいアルバムを出して欲しいです。