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欧州大学事情通

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ケンブリッジ大学の物理学科をキャベンディッシュ・ラボ(Cavendish Laboratory)と呼ぶ。学部・学科に研究所がぶら下がっているのではなく、学科自体を研究所と呼んでしまうのである。イギリスの大学ではこのパターンをいくつか見つけることができる。例えば、キャベンディッシュの隣にあるコンピュータ学科はコンピュータ・ラボである。

キャベンディッシュは設立が1874年。
800年以上の歴史を持つケンブリッジ大学では比較的新しい学科である。かつて所長(学科長)を務めた研究者には、マックスウェルの方程式のマックスウェル、電子を発見したJJトムソン、α線、β線、原子核を発見したラザフォードを始め、物理学の教科書に出て来るような著名な研究者を数多く見つけることができる。現在までにノーベル賞受賞者を29人輩出しており、例えばDNAが二重螺旋構造であることを発見して医学生理学賞を受賞したクリックとワトソンも実はキャベンディッシュの研究者である。

かつてはケンブリッジの中心街にあったラボは手狭になったことから、1970年代に西ケンブリッジのサイトに移転した。何の変哲もない古めのモダンなビルである。住所はJJトムソン・アベニュー。バスかタクシーを使わないとちょっと厳しい距離であるが、学生や教員はたいてい自転車を使っている。ケンブリッジの中心街は自動車の立ち入りが制限されており、駐車場もあまり豊富でないことから、自動車は不便なのである

ラボの二階の廊下がミュージアム・スペースになっており、著名な学者たちが使った実験装置など、物理を少しでもかじった人にとっては大変興味深い展示物が並んでいる。例えばJJトムソンが電子を発見するときに使った陰極線管、クリックとワトソンが使ったDNA構造の模型などもある。DNAの模型は、以前はオープンに展示されていたが、マッチ棒のような部品を折って持ち帰る人が多かったので、現在展示してあるのはレプリカであり、しかもガラスケースに入れられている。

さて、このような輝かしい実績を持つキャベンディッシュ・ラボであるが、最近は少し様変わりしているようである。まず、ここ久しくノーベル賞受賞者を出していないということがある。最後の受賞者は1989年のノーマン・ラムゼーであるから、何と24年も受賞が無く、これほど長い間あいのはラボ設立以来初めてのことである。次に、キャベンディッシュの技術を元にしたベンチャー企業が生まれているということである。例えば、ケンブリッジ・ディスプレイ・テクノロジーやプラスチック・ロジックと言った企業である。さらに、キャベンディッシュを中心とした大型の産学連携が行われているということである。日立は1989年キャベンディッシュと同じビルにいわゆる「エンベデッド研究所」として日立ケンブリッジ研究所をオープンし、マイクロエレクトロニクスあるいはオプトエレクトロニクスの分野で連携を行っている。

ケンブリッジのキャベンディッシュ・ラボといえども、もはや象牙の塔の研究所ではなく、産学連携やスピンアウトを通じて産業化を目指していくという世の中の流れに従ってその姿を変身させているように感じられる。これまで留学先や共同研究の相手先としてあまり考えられていなかったかも知れないが、検討の俎上に乗せてみてはいかがだろうか。


欧州大学事情通-King's College, Cambridge

King's College, University of Cambridge