枕返し [出現地] 各地



妖怪枕返しは、その名の通り人間が寝ている間に枕をひっくり返す、または移動させるといった悪さをする。

それに一体何の意味が?

そうお思いの方もいらっしゃるだろうが、ひとまず枕返しについての伝説をお読み頂きたい。




『ある宿屋に一人の旅人が泊まっていた。
その旅人は大金を持っており、それを知った宿屋の主人は欲に目がくらみ、旅人を殺して金を奪ってしまった。
それ以来、その宿屋には妖怪と化した旅人の霊が現れ、夜な夜な泊まっている人の枕をひっくり返すようになった。』


最後の部分ちょっとよくわかんない。
殺されて金奪われて、その仕返しが枕裏っ返すだけ?
復讐として成立してんの?

など御意見は多々あるだろう。
しかしこの話が語り継がれてきたのには、れっきとした理由がある。




古来日本では、人が眠りに就き夢を見ている間は魂が肉体を抜け出していると考えられており、その時に枕を返されたり外されたりすると魂が肉体に戻ることができないと信じられていた。
つまり枕は、肉体と魂を繋ぎ止める為の重要なアイテムだったのだ。

朝起きて枕がひっくり返っていたり、有らぬ所に転がっていようものなら、

こりゃいかん!
オイラの魂どっか行っちまった!

となったはず。
この精神的ダメージは計り知れない。
枕返しの狙いはこれだった。




度重なる妖怪騒ぎ、続出する魂の抜け殻、たちまち噂が広まり客激減、宿屋は廃業に追い込まれるだろう。
そして最後に当然主人の枕もひっくり返されて、ジ・エンド。

あの枕返し伝説は世にも恐ろしい復讐劇だったのである。




現代の我々にとっての枕は、眠る時に頭を乗せるだけの道具であり、枕返しは単なるいたずらっ子というポジションに甘んじている。

しかし魂や夢の概念が完全に解き明かされていない以上、枕返しの行動に何らかの意味があるとしても不思議ではない。

寝相が悪い、と思っていたアナタ。

それは枕返しの仕業かもしれないよ。



記者 牧田龍彦