
ぬりかべ
[出現地] 各地
夜道を歩く人の目の前に現れて行く手を遮る。
「ゲゲゲの鬼太郎」に登場するぬりかべは、手足のついたこんにゃくのような少々ファニーな風貌で、鬼太郎達の盾となったり悪者に浴びせ倒しを食らわせたりしているが、本来ぬりかべとはどういう妖怪なのだろうか。
鬼太郎の作者水木しげる先生は著書「日本妖怪紀行」の中で、戦時中に東南アジアのジャングルでぬりかべに出会った時のエピソードを披露している。
夜、敵兵に襲われて味方とはぐれてしまった水木青年はジャングルの中を一人さまよっていた。
すると突然目の前に壁のような物が現れて先に進めなくなってしまった。
右に行っても左に行ってもその壁は続いていて、押しても引いてもびくともしない。
敵が来るかもしれないという恐怖の中、水木青年は必死に壁と格闘するうちに疲れてしまい、その場にしゃがみこんでしまった。
少し休んだ後立ち上がって辺りを見てみると、いつの間にか壁がなくなっていて先に進むことができ、無事に味方のいる拠点にたどり着くことができたそうだ。
水木先生は『ぬりかべは気が動転したような時に現れる妖怪』と語っている。
これは私の推測だが、もしそのジャングルでぬりかべと出会わなければ水木先生は命の危険に晒されていたのではないだろうか。
突如現れた壁の先には敵が潜んでいた。
『この先に進んではいけない』
ぬりかべが先生を助けてくれたのだ。
そう考えると今日我々が先生の作品を楽しめるのもぬりかべのおかげかもしれない。
妖怪ぬりかべとは、我々が危険な道を進まぬように守ってくれる守り神のような存在。
私にはそう思えてならない。
そこで私は我が家の壁の一画をぬりかべにしてみた。
仮想ぬりかべだ。
人生は選択の連続である。
行くべきか行かざるべきか、攻めるのか守るのか。
何か選択を迫られた時、私はこの仮想ぬりかべに語りかけようと思う。
きっと間違った方向に進まぬよう彼が私を守ってくれるだろう。
私の人生に心強い味方が出来た。
記者 牧田龍彦