老人と犬それぞれの人生
…いろいろあるけど 影の長さは同じ
男は愛犬を連れて長い旅に出ていた。
しかし旅の途中で心臓発作に襲われ、男はそのまま死んでしまった。
再び目覚めたのは暗闇。
そばで愛犬が見つめていた。
男は自分が死んだことをちゃんと覚えていた。
愛犬と一緒に暗闇を歩き出すと、まばゆく輝く光のアーチが現れた。
奥には金銀でできた巨大な城。
門番に尋ねた。
「すみません、ここは何なんですか?このアーチはいったい?」
「ここは天国です」
「あぁっ、ここが天国!感激だ!!私は天国に導かれたのか!?
ところで喉が乾いてしょうがないんですが、水を1杯いただけますか?」
「どうぞ。城の中によく冷えたミネラルウォーターがあります。
ごちそうも食べたいだけどうぞ♪」
「さすが天国!ありがとうございます」
愛犬を連れて入ろうとすると、
「ちょっと待って下さい!ペットはここより中には入れません!!」
「…えっ???」
…しばらく考えた
そして男はちゃんと覚えていた。
自分が死んだあと、死んだ自分に何日も寄り添ったまま、
愛犬が息を引き取ったことを…
男は水をあきらめて愛犬とともに城を後にした。
再び暗闇を歩いていると、今度は古ぼけてガタガタの木製の門が見えた。
そばで本を読んでる人がいる。
「すみません、水を1杯いただけますか?」
「中に手押しポンプがあるよ」
「それであのう・・・。犬を連れて入ってもいいでしょうか?」
「もちろん」
「ありがとう!」
男は水をくみ上げて、愛犬と一緒に心ゆくまで水を飲んだ。
それから門に引き返した。
「水をどうもありがとう。ところでここは何なんですか?」
「ん?? …天国だよ」
「天国?!でもこの近くの光のアーチの城が天国だと・・・」
「ああ、あれは地獄だよ」
「地獄が勝手に天国を名乗ってるんですか?怒らなくてもいいんですか?」
「うん、親友を置いていく人間を選別できるからいいんだよ」